昌平黌・東日本国際大学はこのほど、現代思想家で元内閣官房参与の松本健一さん（66）を迎えた講演会をいわき市の同大で開いた。演題は「ユートピアではなく、故郷がほしい！－3．11の文明的意味－」。
　松本さんは「この100年、日本人は外への憧れを持ち続けてきた。都市は弱きものを自由にするという都市神話があり、その憧れから故郷を離れていった。しかし、自分の土地（風土）というものをまず知っておいた方がいい」と切り出した。
　戊辰戦争を引き合いに福島県の土地柄を挙げ、「福島の人は政治家に向いていないし、ルートがない。（官軍・長州藩の流れをくむ）山口県のように9人の首相を輩出した県とは違う。松山藩も敗軍であり、首相経験者は1人も出ていない。ところが、正岡子規、高浜虚子、河東碧梧桐、大江健三郎などといった多くの文学者や文化人を輩出している」とし、伝統風土を再認識するよう促した。
　日本の教育については「世界の国々の教養は取り入れるが、自分の住んでいるところは教えなくなった」と指摘した。
　現場を把握できずに失敗している外交問題や、復興予算の使い道などにも言及、「非常時でも省益優先の官僚政治がまかり通っている」とした。また、震災、原発事故当時に官邸で見た様子を、「復興、原発収束という最大の懸案があるにもかかわらず、政治家は綱引きが始まると興奮状態に陥った」と嘆いた。
　高校生、大学生らを前に「どんな人間社会を、だれと手を取り合ってつくってゆくか。今の行動がこれからの人生に尾を引いてかかわり合ってくる」とアドバイスした。
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　松本さんは群馬県生まれ。東京大経済学部卒。政治思想史学者丸山眞男や中国文学者竹内好らに師事し、幅広い言論活動を展開。作家司馬遼太郎との親交も深く、幕末から昭和いたるまでの著書多数。1995年に「近代アジア精神史の試み」でアジア太平洋賞、98年に「日本の近代　第一巻　開国・維新」で吉田茂賞、2005年には「評伝　北一輝」（全五巻）で司馬遼太郎賞・毎日出版文化賞を同時受賞。ほかに「海岸線は語る　東日本大震災のあとで」（ミシマ社）など。10年、菅内閣で官房参与に就任。評論家、歴史家で、現在は麗澤大教授。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2012・10・28）