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コラム・筆は一本也

「今こそ先憂後楽」

史上最悪の原発事故から1年7カ月。政府は「復興は一歩一歩進んでおり、放射線量も下がっている」などと気楽なことを言っているが、被災地の現実をまずは知らなすぎる。幕引きを早めようという思惑が容易に透けて見え、政治不信は募るばかり

▼野田首相は変わり果てた福島第1原発を2度訪れ、防護服に身を包んで処理状況を視察しているが、自民党の安倍総裁は背広姿で車内からの視察。厳しい実態を目の当たりにしたわけだから、少なくとも復興予算の増額や賠償のスピードアップを、声を大にして政府に働きかけてほしい

▼国会議員の多くはこうした現状をマスコミ報道やネット情報などですでに知っているつもりだろうが、被災地に足を運んでみれば復興の重要性が否応なしに現実としてわかる。例えば、休会中にもすべての国会議員、関係官庁の役人が被災地を訪れ、数日間滞在してつぶさに現地調査し、被災住民の切実な声をとにかく聞くべきだ

▼ところが、永田町周辺は展望の開けない政争に明け暮れ、衆院解散の話ばかりが先行、原発事故や風評被害などは過去のこととしてしまっているような印象さえ受ける。「復興だ」「除染だ」は無論口先だけと誰しも思う

▼先憂後楽という言葉がある。統治者や政治家の心意を突いたものだが、統治者や政治家は、民が苦しむ前にその苦しみを味わい、民が楽しむようになった後で楽しむべき、という格言だ。つまり、震災、原発による被災者の苦しみを思い、復興と復活を遂げるまで自重すべきということである。30~40年もの年月を要する収束の時期までとは言わぬが、国を司る議員たる者、そうした気持ちを持ち続け、体現してほしい

▼加害者である東京電力もしかりである。国策などという逃げ口上は、国民は決して許さぬ。少なくとも、先憂後楽の四文字を良心の証としてしっかり胸に刻み、苦楽をともにではなく、まずは苦をともにしてもらいたい。【天下無双】
                             (2012・10・11)

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