昨年３月の震災、原発事故で活動休止を余儀なくされていた女声合唱団「シレーネカンタンテ」の団員たちが再び結集し、創立３０周年記念の定期演奏会を開いた。１４回目を迎えた定期演奏会は９月１日、いわき市文化センターで開かれ、素晴らしい感動のハーモニーが観客を魅了した。
　和田佳子会長は「震災後、なかなか歌うことに向かえない毎日だったが、みんなが歌うことが好きなのです。今回のステージでは私たちの叫びや祈り、想い、そして感謝の気持ちを込めて歌いあげました」と喜びを表現した。そして、「一緒のステージに立つはずだった２人のメンバーが震災や原発事故の影響で活動ができず、残念ながらステージに立つことが出来なかった。しかし、いつか一緒に歌える日が来ると信じています」とあすへの希望を胸に話した。
　シレーネカンタンテとは「歌う人魚たち」の意味。
　浜通りを中心に「歌うことの好きな人たちが集まり、一緒に勉強しよう」という呼びかけで始まった「いわき声楽研究会」がスタート。合唱界の巨匠古橋富士雄さんの師事を仰ぎ、女声アンサンブルとしての活動を積み重ねてきた。会員それぞれが実力を持つ歌い手で、定期演奏会をはじめ、小、中学校の音楽鑑賞教室、チャリティーコンサート、日本指導者協会や東京都教育委員会主催の演奏会などに精力的に出演している。
　当初は昨年６月に開催する予定だったが、震災と原発事故の影響で断念。一時は活動の継続も危ぶまれたが、合唱への熱い思いが団員たちを再び練習に向かわせた。県内各地の避難地や北海道、埼玉県から駆け付けた団員もいる。さらに、姉妹合唱団の援助や励ましもあり、開催の実現にこぎつけた。
　団員たちは、毎回の練習に厳しい姿勢で取り組んでおり、旧知の仲でも妥協せずにアンサンブルを組み立てている。震災後活動ができなくなった団員もおり、今回は８人での演奏となった。自分の声部だけを歌うことはほとんどなく、必要な音量や音質によって分担し直しているという。古橋さんの素晴らしい指導に加え、日ごろの質の高い練習により、アンサンブルとしての高いレベルを保っている。
　演奏会は３部構成で開いた。シレーネカンタンテの指導にも当たった世界的作曲家の松下耕さんも参加、自作「やさしさに包まれて」の曲の解説を交えながら指揮を振った。「ゴキブリ五郎伝」をソロで歌った正岡仙子さんの歌唱力と絶妙な演技は、会場を大いに沸かせ、楽しませた。
　最後に「三つの詩編」の演奏があり、苦難を乗り越えんとする歌詞の内容に、避難者らの困難に思いを寄せて涙する人もいた。
　コンサートの最後を飾ったアンコールは、「信じる」を『信じることは生きるみなもと～』と歌い上げた。また、震災、津波に遭ったいわき市の海沿いで、歌碑が被害に遭わず残り、市民の心を癒したとされる故美空ひばりの記念碑「みだれ髪」を、古橋さんのショパン風の編曲で披露した。
　また、会長の和田さんは「最高の指揮者と最高の作曲家とのご縁に感謝します」と涙ぐみ、仲間たちとコンサートの成功を喜び合った。この日の演奏会は、開場前から多くの人が列をつくり、会場は満席となった。