困難に負けない人づくりやリーダー育成に取り組みながら、難関校に数多くの生徒を送り出している福島県内最大手の進学塾「ベスト学院」グループ(本部・郡山市)。震災、津波、原発事故と三重苦にもかかわらず、生徒数が前年比130%という驚異的な実績を残し、業界内外から注目を浴びる。徳育による人間教育に力を入れ、福島から未来を託す「人財」を育成するベスト学院進学塾の細谷松雄学院長に、社会に貢献するリーダーの育成や教育法、成績の上がる勉強法などを聞いた。
-進学塾として、人づくりやリーダー育成に力を入れる大きな理由は。
「2つの理由がある。まず私自身が企業経営や議員活動を通じて経験したことだが、リーダーによって組織の命運が180度違ってしまう。リーダーの存在はそれだけに大きく、大切。もうひとつは、リーダーはどんな集団や職場、小グループでも3人以上集まれば必ず生まれる。つまり、リーダーはどこに行っても求められるし、リーダーとして活躍すれば、チャンスが回ってきて、ステップアップする。自分の夢を実現させ、より幸せになれる確率も高まるし、社会貢献活動もできる。
礼儀、きちんとした生活態度、当たり前のことを継続してきちんとやる。このことができる人は素直で、学ぶことにも一生懸命。その結果として、子どもたちは成績が伸び、難関校にも合格できるようになってゆく」
-具体的にどのような指導方法を。
「入塾生にはリーフレット『21世紀の真のリーダーの育成~成功哲学』を配布。この中にリーダーの条件15項目を書き出している。①いつも明るく元気で、プラス思考で行動する②素直で誰からも尊敬され、信頼されている③常の夢と目標を鮮明に持ち、前向きで行動する。このほか、人を大切にする。人一倍努力する。信念を持つ。正しく判断でき公正公平である。強い使命感と責任感を持つ。判断力と決断力・実行力があり的確である。勇気や情熱があり熱血漢である-など、こうした15箇条をつねに身の近くに置き、見てもらうことを勧めている。社会人になっても十分通用する内容で、ある大手企業の支店長から『当社での社員教育に使わせてほしい』と請われたこともある。
夢を夢で終わらせないためのキャリア教育も実施している。毎年1回、全国からいろいろな分野の講師を招き、リーダー育成セミナーを開催。トップを極めるための方法論やモチベーションの持ち方について話をしてもらっているが、その後の子どもたちの勉強に取り組む姿勢に変化が見られる。子どもの心は思う以上に柔軟で、スポンジが水を吸い込むようにぐんぐん吸収してゆく。親としては、たくさんの『大人の見本』を見せて刺激を与えることが大事。
2年前から先人の言葉や教えを学んでもらっている。授業が始まる前の『三分間のこころざし』で論語、偉人、ことわざ、先人の知恵、歴史上のできごとを学ぶ、一般常識を身につける-の6項目から毎日1つを取り出し、みんなで音読。講師が内容を解説し、生徒に感想を書いてもらうことで、道徳心をはぐくんでいる」
-成績の上がる勉強法とは。
「小学4年生がひとつの分かれ目になる。それは、勉強の質と量がガラリと変わるからで、覚える量が増えて内容も難しくなるため、予習復習しないと、どんどん忘れてしまうようになる。ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスは、記憶が時間経過でどのように変化するのかを忘却曲線という再生率の実験法で記述している。それによると、人間の脳は時間の経過とともに聞いたことをどんどん忘れてしまう。最初は100%覚えていても、1時間後には56%、1日経つと7
4%、1週間で77%と忘れていき、1カ月後にはたった21%しか覚えていなくなる。忘却曲線は、人間の記憶機能と復習の有効性を示している。つまり、大事なのは100%覚えていられるように何度も復習すること。これを中学3年、そして高校3年まで維持していけば、超難関校にも入れる。
当学院の成績アップ10カ条を簡単に紹介すると、目標や計画を立てて集中し、継続する。学校や塾の授業を真剣に受ける。ノートの整理と予習復習をする。間違いをわかるまで、出来るまで練習する。ムリ、ムラ、ムダがなく、毎日一定時間必ず学習する習慣をつけることなど。拙著『夢・目標を持つ生徒は成績が上がる』(PHP研究所)で、成績アップのコツと各科目の勉強法、リーダーシップの必要性、子どもの教育のかかわり方、徳育を重視した人間形成などを書き記しているので、ぜひ読んでいただきたい。
また、頭のよさは遺伝だと言われるが、けっしてそうではない。先ほど、復習を繰り返すことの大切さを強調したが、習慣を身につけることが大切。よく、『医者の子は医者』と言うが、習慣を身につける環境と教育があるからで、たんなる遺伝ではない。地道にコツコツとやる。努力しか人は大成しない」
-震災後に大きな決断をしたが、どのような取り組みを。
「震災でいわき、相双地区を中心に多くの教室が被害を受け、特に原発から5㌔、30㌔圏内にあった2教室は再開のめどが立たなくなった。学院全体の損害も含め、死活問題だった。私は決断をし、震災後の4、5月の2カ月間は被災した子どもたちの、小学、中学、高校すべての塾の授業料を全額無料にした。当学院の生徒だけでなく、り災証明があるすべての子どもを対象に無料開講も実施した。私どもができる精いっぱいの震災支援であった」
-原発事故後、学習塾として初めて放射能の除染に取り組んだが。
「専門のスタッフが約1カ月かけ、すべての教室の入り口周辺や駐車場を中心に除染を行った。その後も除染活動は継続して行っている。子どもたちに安心安全な環境で学んでもらうことは当然の責務であり、これからも力を入れて取り組んでいきたい」
-今年で創立30年を迎え、県内で最多の教室を持つ進学塾となったが、躍進の秘けつは。
「徳育教育やリーダー育成教育、生徒一人ひとりに夢を持ってもらうプロジェクト、それに社員を大切にする社風が実を結んでいると考えている。成績アップのための学習指導が大切なのはもちろんだが、こうしたことをしっかりと踏まえたうえでないと何のための教育か、勉強か、わからなくなる。
それに、震災支援が大きな反響を呼んだ。口コミで評判が広がり、全体で前年に比べ130%も生徒が増えた。震災前より生徒が増えたわけで、私自身、正直驚いた。
当学院進学塾の信条は『目標は高く、努力は厳しく、人間能力の差は小さい、しかし努力の差は大きい』だが、同時に進学塾の枠を超えて人間教育にも力を注いでいる。この福島県から未来を託す真のリーダーを育てていきたい」
◇成績アップ10ヶ条
1条 目標をもて、目標のない所に成功はない。
2条 計画をたてよ、実行は集中して行え、そして継続すること。
3条 学校、塾の授業を真剣に受けよ。
4条 ノートは整理してよくとること。
5条 家庭で予習、復習をきちんとやること。
6条 各種テストでのまちがいを、わかるまで、出来るまで、練習すること。
7条 問題集により、基本、応用、発展問題を身につくまで、練習すること。
8条 わからない所は、わかるまで質問すること。
9条 わからない、できない、やらない、3ないを言わない。
10条 勉強にムリ、ムラ、ムダがなく、毎日一定時間必ず学習する習慣をつける。
(2014・8・1)