日本再建イニシアチブ財団理事長で元朝日新聞主筆の船橋洋一氏（６７）は先月、郡山市で講演、同財団における東京電力福島第１原発事故に関する独立検証委員会（民間事故調）の分析を踏まえて、福島原発事故の構造的、歴史的背景に切り込んだ。
　船橋氏は異業種交流団体・ＭＢＡ２１のセミナー例会で、「日本大災害の教訓～複合危機とリスク管理～」と題して講演。菅直人首相（当時）が事故直後の３月１２日に現場視察を強行した点に触れ、「危機の時のシチュエーション（局面）としては、行くべきではなかった」と切り出した。「その時に爆発したら、どういうことになるか。国のリーダーが危機の中、無防備で突っ込んでいったようなもので、日本はそういう体制なのだということを世界に示してしまった」と指摘した。
　海水注入が遅れたことにも言及、「側近（班目春樹原子力安全委員長）のダブルネガティブな回答、表現力の問題があった。伝言ゲームとして、危機時の表現法が確立されていない状況だった。こういったことはアメリカでは禁止だ。戦場はイエスかノーしかない」と断言した。
　東電と共同で事故対応に取り組む点にも触れ、「危機の時は官と民の一体がどれだけ必要か。（そうした点で）官民のパートナーシップ、意思の疎通ができていなかった」とした。
　シビアアクシデント（過酷事故）における自衛隊の対応の課題にも言及した。民間事故調は、自衛隊が南相馬市で退避を１００キロ圏とした点に着目。「自衛隊のパニックが隠れた大きな課題で、国会事故調はこの点をフォーカスしていない。シビアアクシデントにどこが対応するのか書かれていないし、作戦が一切ない。今のところ、対応は自衛隊だが、ところがパニックに陥ってしまった」と分析した。
　海水注入を独断で継続したとされる当時の吉田昌郎福島第１原発所長の行動にも問題を投げかけた。「死を覚悟し、７０人（の部下）を率いたすごいリーダーシップだが、（国の存亡を左右する事態において）１キャパシティー、能力を超えて、問題が生じかねない。（東電）本店を無視しての海水注入は結果正しかったとしても、現場のトップとして（本店との）意思疎通があったのか。１所長が、俺が責任を取るというレベルではなく、行動は手放しで喜べない」とした。
　福島県の危機管理には、幾つかの疑問を呈した。「杓子定規でどうのこうのではなく、住民の安全に真正面から見据える必要があったのではないか。（世界に向けて訴え続けた）南相馬市の桜井勝延市長、（避難者をいち早く受け入れ、支援体制を取った）新潟県の泉田裕彦知事の行動を、何故、福島県（のトップ）はできなかったのか。（県民を）不安、惑わす原因になったし、知事が責任を取ると言ってくれたら違っていた」とした。また、南相馬市は約２万人がいまだに避難し、県内では一番人口が流失した。そうした点で「南相馬がこれからどう立ち直るか、これからの試金石だ」と述べた。
　今回の原発事故は「史上最大の事故であり、すさまじい危機の中で運が良かったとしか言いようがない。死者は出なかったとするが、（直接的ではないにしても）双葉で５０人が死亡している。全体を考えた場合、（一体）何だったのか」。さらに「リスクをどう社会がマネージメントし、管理するのかが今後問われる」と総括した。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（２０１２・６・８）