ボランティア活動を通して知り合った女性二人が、東日本大震災を乗り越えて再び出会い、互いの夢を一つに被災地福島からの一大音楽イベント開催に実を結ばせた。被災地の復興に心を寄せる二人を結びつけたのは、インターネット、フェイスブックでの交流だった。震災から半年、二人は再会し意気投合。思いを実らせた「ふくしま・みんなの演奏会」は今夏、日本を代表する女性指揮者西本智実さんを迎えて、福島市で開かれる。
　インターネットで知り合った二人の女性は、福島市の主婦名和良江さん（４９）さんと、東京・田無市の音楽事務所経営林妙子さん（５５）。
　二人がネットで知り合ったのは、震災前だった。名和さんが子どもの使わなくなったランドセルをこのまま捨てるのはしのびないと思い、利用できる方法をインターネットで調べたことに始まった。「わが子が使ったランドセルはまだまだ使える。だれかに使ってもらえないか。捨てるのはしのびない」と考えた名和さん。
　そこで、検索を伝って林さんがボランテア活動していた「BanaPele Japan(バナピレ・ジャパン)」を探し当てた。ランドセルではなかったが鍵盤ハーモニカなどを送ることで、平均寿命４０歳という南アフリカのレソト王国やローマ地区に住む子どもと若者を支援する活動に共感した名和さん。福島から林さんの活動に協力をすることにした。
　大震災が起きたのは、それから数日後。お互いの安否が確認できたのはしばらくたってからだった。その間、震災復興を掲げた各種大会やイベントに出かけた名和さんだったが、意図するところが違い、次第にむなしくなるような気持ちになっていった。疲労もたまり、津波や原発事故の映像を見るとショックで胸の鼓動が速くなり、涙が止まらなくなる自分がいた。
　「これでいいのだろうか、私はどうしたいのか」と、自問自答しているうちに、頑張りようのない自分を感じた。そして自分は何をどうすればいいのかをもう少し深く考えたいと思うようになった。その思いは、自身のフェイスブックに綴ってきた。
　名和さんがある時、訪れた林さんのフェイスブック。そこで見た動画は、コペンハーゲンの駅近くの路上でのパフォーマンスだった。一人のオーボエ奏者がラベル作曲のボレロを吹き始めると、どこからともなく一人、また一人と演奏者が増え、それはまさに路上の演奏会。演奏が終盤を迎えると一人、また一人と今度は去っていくシーンだが、演奏の形がとても自然で、素敵だと思った。思わず押した「いいね！」。コメントのことばもすらすらと出てきた。「うわー、素敵。いいな、こういう演奏会」。
　それを読んだ林さん。「そんなにいいと思ってくれたの。それじゃ、福島でやろうよ」と元気な返事が返ってきた。
「頑張れ福島！に疲れました…、自分たちが純粋に楽しめることをしたいのに」「じゃあ福島のためにみんなが楽しめる事を企画しましょうよ」－。
　ここから二人のプロジェクトが始まった。
　音楽の企画を仕事にする林さんが、友人に相談を持ちかけたところ、世界で活躍する西本智実さんが無報酬で協力してくれることにもなった。まさに、青天のへきれきだった。
 　こうして福島での演奏会が実現する運びとなり、二人は初めて会うことになった。出会いはまさに一期一会。全く面識もなかった二人が震災を機に、絆というエンゲージメントで結ばれ、今夏、プロとアマチュアが一緒になった市民総参加型の演奏会へとつながった。二人がプロデュースした演奏会は８月１９日、福島市のあづま総合体育館で開かれる。

　【写真：ネットで友情をはぐくみ、ビッグな音楽イベント開催にこぎつけた名和さん㊤と林さん】

　　（2012・6・4）

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