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復興への思い

「変化と不変」  いわき市立美術館館長 佐々木吉晴

いわき市立美術館 館長 佐々木吉晴

【略歴】1956年、宮城県塩釜市生まれ。80年、東北大文学部哲学科美学・西洋美術史専攻卒。2012年、 いわき市立美術館副館長から同館長に就任。いわき明星大非常勤講師、福島大客員教授、筑波大論文査読委員、福島県立美術館作品収集委員、郡山市立美術館作品収集委員、
喜多方市美術館美術品収集委員、福島県景観アドヴァイザー、福島県文化振興審議委員

 専門:西洋美術、フランス近代美術(印象派~20世紀前半)、西洋・日本現代美術、博物館学、パブリック・アート

昨年から今年にかけて、いわき市立美術館では、開催を計画していた展覧会のうち、海外から借用する企画がことごとく中止になった。
 中止の理由は三つあった。
 第一は、水道や道路など街のインフラが大きなダメージを受けたこと。それらが(必要最低限という程度ではあるが)復旧し、美術館をはじめとする市内の主な文化施設がようやく再開できたのは4月30日になってからである。それが要因のひとつとなって、4月開催予定であったアルフォンス・ミュシャ展が中止された。
 第二は余震への危惧。当館では6月に、ギリシア・ローマ時代から現代にいたるまでの香水瓶の歴史を振り返る展覧会を予定していた。国内コレクションを中心に、フランスからも借用する計画だった。しかし、巨大余震が来る可能性が極めて高いとの情報がメディアに頻出したことから、所有者が安全を考慮して貸し出しを取りやめることに決定し、展覧会は中止になった。特に工芸品の場合は、展示品保全に万全を期してはいても、巨大な揺れに対して100%安全であるとは断言できない。少なくとも所有者は、その時点での科学的な根拠に基づいて判断していたと思う。残念ではあるが、やむを得ない決定であったと理解している。
 そして第三の理由は放射能の影響である。
 爆発直後に、アメリカ政府は自国民に対して80km圏外への自主避難を促した。いわき市立美術館は、原発から南西に約45km程度の距離に立地する。実際には、まさにそのとき通常の季節風とは逆向きに風が吹いたために放射能が北西方向に流れ、当館もいわき市も深刻な被爆を避けることができた。空中線量は爆発直後こそ高かったものの、1ヵ月後には0.3マイクロシーベルトを下回る数値まで低下、現在は0.1を若干上回る程度になっている。これは自然線量のほぼ2倍で、おおむね健康に悪影響が出るレベルではないと言われている。
 アメリカ政府が避難勧告を解除したのは爆発から7ヶ月後だった。当館では同国から借用する展覧会を秋に予定していたが、間に合わず、取り止めになった。ただしこのケースでは、予定通りの借用を要望する一方で、延期の方向をも視野に入れながら交渉を重ねていたことが奏功して、1年遅れで今夏開催できることになった。「北斎展」である。
 また、放射能と余震を懸念する国外大手保険会社が、日本では作品が汚損される可能性が少なくないと評価し、わが国への作品輸送にかかる損害保険を受理しないよう決定したことも、大きなダメージとなった。これにより、南フランスの美術館から借用する大規模な展覧会が中止になった。万が一作品が損傷した場合は、損害保険によって修復がなされるわけであるが、その裏づけがなくなったからである。
 貴重な作品を後世に遺すために、道義的にも経済的にも重い責任を負っている以上、安全に対する配慮に「過剰」という言葉などない。中止の決断はやむを得ないものと受け止めている。けれどもし、彼らのそうした判断が、原発、放射能、余震などについて発信された情報の正確さと透明性に対する疑念や不信に根ざしたものであったとすれば、二重に残念なことである。そもそも日本が情報を必要なときに正確に伝えることを怠り、しばしば基準となる数値すら変えてしまう混迷振りを示してきたからと言われても反論できないからである。1年以上が過ぎた現在にいたっても、大都市の大型美術館を除けば、国内の美術館で海外から借用する展覧会はほとんど計画されていない。
 
 実際には、大震災と放射能により美術館が受けたダメージは、展覧会事業のみではない。ハード面では一部収蔵品が破損、水道管が断裂、歩道部分も大きく陥没し、ソフト的には先に述べたように大規模な海外展の開催が困難になり、市外からの来館者が大きく減少した。そしてそれ以上に美術館を取り巻く社会そのものが、物心両面で深刻なダメージを受けて大きく変わってしまった。
 古代ギリシアの哲学者ヘラクレイトスは「同じ川に二度入ることはできない」といい、鴨長明は『方丈記』の冒頭に「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」と記した。彼らが示唆したように、たとえハードが完全に復旧されたとしても、もはや社会全体が再び同じ状態に戻ることはない。であるならば今わたしたちは、単に3・11以前に戻すことを目標にするのではなく、これを機会として、もう一度原点となるものを見つめなおし、再定義し、構造や手法を現在と将来をふまえたものに修正・再構築すべきであろう。
 それゆえわたしたちは、一方では旧に復する作業を進めつつ、システム化されていた組織や事業のあり方を全面的に見直し、従来にはなかった新しい活動に取り組み始めている。
 例えば当館では、昨年来さまざまなタイプのワークショップを連続的に実施しており、今春はそうしたワークショップと展示を連動させる新しいタイプの事業も開催した。声を出したり体を動かしたりする行為がどのようにして美的になるかだけではなく、特に幼い脳と心の発育にそうした行為がどのように関係するかを探求する新しい試みも、その中に含まれていた。
 また、地元の美術家たちに呼びかけて、「今つくりたい、伝えたい」ことをテーマに、3・11以後の5ヶ月間に制作した作品による展覧会をも開催した。これは、単に海外展の代替という位置づけではなく、今だからことの意義ある企画だったと考えている。
 ヘラクレイトスはすべてのものは変化するとうたいながら、その一方で不変のものがあるとも説いた。ロゴス、すなわち発せられた言葉、理念である。これを美術館の運営に当てはめれば、ミッション(使命)は変わらないということである。わたしたちが今後、こうしてさまざまな見直しや試行を重ねながら、社会の変化に応じつつ自らも変化し、次代にふさわしい新しい美術館像をつくっていくときに、変化そのものに埋没して本来の美術館のあり方を見失わないために、決して忘れてはならないことである。変化と不変。これを今この時期の、そしてこれからの数年間の大きなテーマとして、取り組んでいきたいと考えている。

                         (2012・6・1)
 

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