国際協力機構（ＪＩＣＡ）の緒方貞子理事長がいみじくも言った。「自分の国でうまくできなかったものを外に持って行っていいのか」。久しぶりに溜飲が下がった思いである。多くの国民が抱いていた思いではないだろうか。あまりにもストレートな物言いに、ある意味で「目から鱗（うろこ）が落ちる」である。この国にあって何故、こうしたあたり前のことを前提に、原発問題を国民的議論として形成できないのかが極めて残念だ

▼社会では「常識」というものが問われる。究極考えてみても、原発で人々が幸せになれるかというコモンセンスの問題である。頭の上を飛び回るハエさえも払えないのに、この国は否応なく原発再稼働に向けて動くばかりか、平和なベトナムに原発を売り込もうとさえしている。経済成長著しいベトナムがいかに大量のエネルギーを欲しているといえども、それで果たして良いのか

▼先日、テレビ番組でホーチミン市街の活気あふれる様子が紹介された。４０数年前のベトナム戦争から、経済復興を遂げる新生国家ベトナムだが、戦後復興～高度成長期へ向かう日本を見る思いである。学生時代に「死の商人」（岡倉古志郎著、岩波新書）を読み、社会に大きく目を見開いたことがあった。原発ビジネスを死の商人として想起するのは、私一人だけではあるまい

▼翻って、「懲りない商人」も後を絶たない。オリンパス、大王製紙、ＡＩＪ…。国内企業の不祥事は、３月だけで報道されただけでも４０件を超えたという。コンプライアンス、ガバナンスと、お題目のように唱えはするが、根っこには利益至上主義が巣くう。行き着くところまで行った先の風景は、果たして…。【笑止千万】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2012・3・29）