福島県南相馬市出身で東京・八王子市在住の会社員佐藤喜彦さん(24)は、昨年の東日本大震災以降、被災者を支援するボランティア活動に奔走している。「故郷を離れて暮らす被災者のために手助けをしたい」という思いから、被災者同士の交流会やイベントを定期的に開き、支援活動とともに橋渡し役を担っている。
佐藤さんが代表を務めるのは、福島県の被災者を支援する団体「つながろう!八王子で!」。
佐藤さんは3月11日の震災直後、八王子市の自宅から家族や友人に次々と電話し、安否を確かめた。幸い家族は無事だったが、親戚の中には津波の犠牲になった人もいたという。
故郷に帰るにも交通網が寸断され、駆けつけることができなかった佐藤さんは、電話やインターネットで被災地の情報を集めた。そうした中で、原発事故の影響で人が減り、さらに救援物資も届かないという、厳しい現実に直面している故郷を知った。
「今、起きていることを伝えなければ」と思った佐藤さんは、被災地の惨状をツイッターで全国に発信した。ツイッターには、県外に避難している被災者から「知り合いがいなくて寂しい」「地域とのつながりがなく、孤独だ」というメッセージが多く届くようになった。
佐藤さんは「県外に避難した人たちのため、八王子で出来ることはないか」と考え、まず浮かんだのは、近所同士で集まってお茶飲みをしている故郷の光景だった。
「東京に避難している人たちが、月1回でもお茶飲みや雑談ができ、そこで何かを得られれば、避難生活も楽になるかもしれない」と、昨年9月に被災者を囲む初の交流会を開いた。
地元を思い出し、くつろいだ気分になって欲しいという思いから、福島県の地方紙や広報誌、名物の菓子、漬物なども用意した。口コミや避難先の自治体の呼び掛けで5人の被災者が訪れ、「涙を流しながらも、時間いっぱいまで語り合い、楽しいひと時を過ごした」という。
佐藤さんは、被災者の支援は「笑顔で話を聞いてあげたり、時には一緒に泣いたり、困っていることに助言したりと、お手伝いをする。それだけで十分だと思う」と話す。
月1回のペースで開いている交流会は計7回を数え、参加する被災者の数も増えている。
3月25日の交流会では、中山薫さん、千章さん夫妻のリコーダー演奏や、「CEA(キュア・イースト・ジャパン)」による無料マッサージサービスもあり、参加した被災者たちは心と体を癒した。三多摩法律事務所、八王子合同法律事務所などの協力で、弁護士による無料法律相談会もあわせて開催した。 お茶会の合間には地域のイベントに参加し、被災地の様子を写真で伝えたり、福島県の観光地をPRしている。
1人で始めた被災者支援のお茶会だが、活動を通して仲間が増え、現在スタッフは15人になった。
八王子市とその近郊には現在、福島県の被災者が約300人避難しているという。
募金活動も行い、昨年10月、南相馬市災害対策本部に義援金として寄付した。
東日本大震災から1年を迎えた3月11日は、JR八王子駅改札口前で「追悼 東日本大震災写真展~明日へのちから~」を開き、写真家高橋かつおさん、殿岡良美さん、佐藤さん自身が撮影した震災直後の相馬市内などの写真を展示した。佐藤さんは「生まれ育った南相馬が悲惨な地になってしまったことは悲しいが、目を背けてはいけない。被災地のニーズや状況、八王子からできることを、写真を見ながら一緒に考えてもらいたい」と話す。
活動の幅が広がるにつれ、体力的につらく、仕事や日常生活とのバランスに悩むこともあるという佐藤さんだが、「あの津波で命を落とした人たちのためにも、毎日を後悔しないように生きていきたい」という強い信念を持って活動を続けている。
震災後にテレビで繰り返し流れていた津波の映像も、自分を奮い立たせるため、つらくても目をそらさずに見ていたという。
これからの活動について、佐藤さんは「交流会のほかにも、被災者とともに、地域のイベントにどんどん参加していきたい。被災者と地元とのつながりを増やしていき、その橋渡し役になりたい」と意欲を見せる。
☆福島県の被災者を支援する団体「つながろう!八王子で!」のブログは
http://blog.livedoor.jp/tsunahachi/
(2012・3・29)
【 写真:佐藤さん(左上)1月に開催された交流会の様子(右上)スタッフと一緒に(左下)八王子いちょう祭りで津波写真の説明をする佐藤さん(右下)】