視覚障がいを持つピアニスト辻井伸行さんの母親として知られる、元フリーアナウンサー辻井いつ子さんの家庭教育講演会が１９日、郡山市中央図書館であった。
　伸行さんは、難関とされるピアニストの登竜門、ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで日本人初の優勝を果たした。
　辻井さんは「子どもの才能の見つけ方、伸ばし方」と題して講演。音楽家としてのわが子の才能に気づき、プロのピアニストを目指した親子の二人三脚の人生や子育ての経験を熱く語った。
　障がいをもって生まれた伸行さんの子育てに悩んだいつ子さんを救ったのは、「普通に育てたらいい」という視覚障がい者からの助言だった。その言葉で吹っ切れたといういつ子さんは、持ち前の行動力で伸行さんとたくさんの体験を積んでいく。
　育児書に頼ることや他人と比較することをやめ、「この子はこの子のペース。他の人より早くても遅くても、どうということはない」と考えるようにもなった。
　同じ曲を聴いていても、演奏者が変わると反応が変わることにも気づき、おもちゃのピアノを与えたのが初めての楽器だった」とも話した。いつ子さんが口ずさんでいた「ジングルベル」を、２歳３カ月で突然弾いたことに驚き、本物の音に触れさせたいという思いからピアノを買い与えたエピソードも紹介。
 
　５歳の時には、ピアニストになりたいと思っていた伸行さん。その一方で、水泳やスキーにも興じている映像も紹介し、母としてなんでも応援してあげようという熱意も語った。
　コンクールに出場したわが子を否応なく注意したことへ、「僕はお母さんにはほめてもらいたい」と言った伸行さんの言葉から、「親でも上から目線はよくない」との弁も。
　「何もしないで大人になると健やかに育たないのではないか」という思いもあったという。「やってみたいことは、やらせて体験させるのが大切」とし、「そうしたことが『元気が出て、明るくなる』と言われる伸行さんの演奏に結びついているのではないか」と付け加えた。

　「花は視覚的なものだけで感じるのではない」という考えから、いろんな感動を共有しようとイベントを駆け回ったエピソードも。花火大会や美術館の展覧会にも二人で出かけ、伸行さんに説明しまくったという。川のせせらぎ、風、小鳥、感じ、色や風景も感じるという伸行さんだが、辻井さんは「風に色を見つけるという心の目を持った」と話した。
 
　「子どもが何かやってみたいと言った時、『あなただったらできるかもしれない』と言ってあげることが、可能性を摘み取らず、信じてあげるということ」「結果を出そうとするのではなく、好きなことに打ち込むことが大切」とも助言した。
 
　終わりに今回の震災と重ね合わせ、「思ってもみなかったことに出合った時、苦しい時には短いスパンを考えて、とりあえず今日一日のことだけを考えて過ごすことがあきらめないことにつながる、あきらめないで」と結んだ。
 
　 辻井さんは現在、子育てに悩む親たちが集まって意見交換するサイト「辻井いつ子の子育て広場」http://kosodate-hiroba.net/を開設している。子育てに関する著書も多数。