かつて東京都に原発を誘致しようとした知事がいた。都の財政再建に向け、知事は部下を集めて爆弾発言をする－と言っても、これは映画での話。多大な経済効果が見込める原発特措法、送電コストの安さといったもろもろの利点を挙げ、しまいには「地震が起きたら原発内が一番安全。世界最高レベルの耐震基準だ」「中央官庁が進める原発を目の前に造ってあげる」と言い放ち、敢然と原発誘致に乗り出す。オブザーバーの学者も加わり、次第に深刻な状況が明らかになるが…。さて、知事の本当の狙いは。

▼映画は2004年公開の「東京原発」。「原発誘致とエネルギー問題に真っ向から切り込んだ意欲作」（ goo 映画評）だ。都知事役は役所広司、ほか有名俳優陣が加わる。「荒唐無稽のパロディー作品だろう」と、かつてそのような先入観で観た映画だったが、福島原発事故後、あらためて観直し、事故を予測したような内容には正直驚く。

▼そんな矢先、「原発興国論」を雑誌に寄稿していた評論家がいた。米国の学者の説を引用し、「放射線量年間100㍉シーベルトは最高に体に良い」「低線量の長期被ばくも同じ」と…。ご自身は、「反対運動にめげずに原発採用に踏み切った自民党内閣、通産省（現経産省）、それに技術を向上させ続けてきた電力関係者には頭が下がる思い」と、のたまう。

▼原発の是非を問えば、百家鳴争、喧々がくがくの様相となるのは必定だが、かと言って肝心な議論を放置するわけにはいかないだろう。「3・11」から1年が経とうする中、果たして、国の、民の行く末を案じた議論が十分になされ、展望を少しでも切り開くことができただろうか。相も変わらずの低次元の政争、お上からの一方的な発表、報道。そこには、民を置き去りにした言葉のみの「民主主義」があるような気がする。【笑止千万】

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2012・3・5）