国債と借入金、政府短期証券を合わせた債務残高、いわゆる「国の借金」が、２０１１年１２月時点で過去最大の９５８兆６３８５億円に達した。日本の総人口１億２７７３万人（２０１２年１月１日時点）で割ると、国民１人当たり約７５０万円の借金を抱えている計算になる。過去最大に膨らんだ債務残高の内訳は、東日本大震災の復興費用を賄うための復興債発行によるところが過半という

▼わが国の抱える借金は、先進国の間でも突出し、デフォルト（債務不履行）による財政破たんがあってもおかしくない状況にあると言われる。ただ、国民一人当たりの高い貯蓄高から、欧州債務危機の要因とされるギリシャやポルトガル、イタリアなどと単に比較はできない。日本の借金は対外債務ではなく国内債務だからデフォルトの心配はない、と異を唱える財政論者もいる。いずれにせよ国家の喫緊の重要課題であることに変わりはない

▼そんな中、経営コンサルタントの大前研一氏が「日本中の地方自治体が、国家破たんを加速させる『要求団体』と化してしまった」と主張している。氏の言う「国家財政を顧みず、要求自治体に堕してしまった地方自治体」の件（くだん）もうなずけないこともない。ところが、原発事故の真っただ中にある福島県の主張を“わがまま”とひとくくりする。１８歳以下の医療費無料化がその標的だが、「原発事故を理由に１８歳以下の医療費を無料にしろというのは明らかに筋が違う」と氏は堂々と言ってのける

▼財政健全化が重要なことは百も承知だ。中央官庁をピラミッドに全国に張り巡らせた不要な出先機関、全国に約５万９０００人いるという議員数、あまた数えきれないほどの無駄、垂れ流しの実態がこの国を覆い尽くす。そうした問題に触れず、子どもの医療費無料を槍玉にした挙句、国のすねをかじる行為と表現したそのことに怒りを覚える

▼大前氏の目に被災している子どもらの顔は映らないのだろう。震災、津波でかけがえのない人を失い、原発事故では苦悩しながらも頑張っている人たちに思いをはせれば、心無い言葉は出ないはずだ。放射能により健康被害が懸念される子どもたちの医療費と、これまで先送りできた財政健全化の問題を同じテーブルにのせている。この神経も信じがたい。【笑止千万】

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2012・2・14）