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コラム・筆は一本也

「陣中食の梅干し」

梅干しは昔からよく日本人に食べられてきた食材だ。梅シロップや梅酒の愛好者も多い。健康効果があることは広く知られるが、平安時代には村上天皇が梅干しと昆布茶で病を治したという言い伝えも残っている。戦国時代になると、梅干しは保存食としてだけでなく、傷の消毒や戦場での食中毒、伝染病の予防にも役立ったという。そんな梅干しも現代は美容効果もあるらしいともてはやされる。
 
▼合戦中の休息では、陣中食の梅干しを見ることで唾液分泌を促進させ、息切れ、脱水症状を防ぐ目的にも使われたらしい。上杉謙信は酒の肴に梅干しをよく取っていたと言われる。梅干しは戦略物資の一つとなり、武将たちは領地に梅の植林を奨励した。今も梅の名所や梅干しの産地は各地に残る。福井県若狭町の西田梅林、群馬県高崎市の榛名梅林は今も梅の名所で知られ、早春になると多くの人でにぎわう。
 
▼梅干しづくりの腕前を語っていた亡き義母だったが、そんな義母から教わることもなくこのたび挑戦した梅干しづくり。淡い黄色に色づく頃に出回る梅と、それに紫蘇(しそ)を求めての梅干しづくりだった。やってみれば、生梅を洗ったり塩の量を計算したり結構手間ひまがかかる。ところで、紫蘇の蘇はお正月の屠蘇の蘇と同じく悪魔を意味するというから驚きだ。もっとも屠蘇の屠には葬るという意味があり魔除けでもある。
 
▼紫蘇には解毒剤の作用もあるというから、身体には良い素材には違いない。紫蘇の葉を使わない白漬けもある。赤い梅干しと言えば、子ども時分の「日の丸弁当」を思い出す。ご飯などを腐らせない効果もあり、それはコメの酸を中和する大事な効能だ。ご飯は体内で酸性に変わるためアルカリ性の梅干しは大役も果たしている。中和剤としての効能は、ひとつの梅干しで茶碗二杯分の中和作用があるというから捨てたものではない。
 
▼顔をしかめながらも食したい一品ではある。それにしても「日の丸弁当」とは見事な命名だが、栄養的には麦ご飯が良いとされる。昭和20年代の小学生時代、わが家は新宅、おまけに父親が頑固な教師とあって白米を食するのは正月や盆などに限った。それでもっぱら麦ご飯弁当。そんなこともあって、よくパンを持参した。そんなパンをうらやましがられ、農家の友だちがよく白米の弁当と交換してくれた。戦後の懐かしい思い出だ。【天衣無縫】
                      (2016・11・15)

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