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コラム・筆は一本也

「阿弥陀堂のハス」

主食であるコメの輸入枠拡大、安い農産物の輸入増などで日本の農業を取り巻く環境は一段と厳しくなっている。先進国の中でも日本は食糧自給率が39%と、まさしく目を覆うような現状である。それも食糧自給率の低下は半世紀近くも前から言われてきたことである。後継者不足と高齢化に加え、福島県内では放射性物質による耕作地の汚染もあり、休耕田は年々増え続けている。安倍政権が重視する地方創生でも移住や就農者確保などを掲げているが、現実はその通りには行っていない。耕作放棄地はまさしく一次産業の衰退化を物語っている。
 
▼今や雑草が生い茂って荒れたままの水田が増える中、転作や観賞用にショウブ、ハス、ヒマワリなどを植え付ける農家も増えていると聞く。特に目に付くのがハスの植栽だ。文字通り「泥より出て泥に染まらず」と言われるようにその清らかさは人目を引く。ハスの花は人の寝静まった真夜中に咲き始め、夜明けごろに見事に開花する。まだ聴いたことはないが、花が開く時に何やら音がするという。夜明け時分に咲き終わるためか昼過ぎには閉じてしまうから午前中が見ごろとなる。
 
▼休日を利用して福島県内をドライブしていると、ハスばかりか、猪苗代町や磐梯町辺りでは休耕田にソバが植栽され、美しい白い花を咲かせる。荒れ果てた水田が見事に復活しているからうれしくなる。ハスの話に戻るが、実の皮が厚いために発芽期が長く、なんと弥生時代のハスの実が2千年の時を超えて花開いた「大賀ハス」の話は記憶に新しい。ハスの名所は各地にあるが、個人的に好きなのはいわき市内郷の国宝・白水阿弥陀堂の池だ。大人の背丈を超えるような古代蓮(ハス)が咲き誇っており、散策する観光客も多い。
 
▼白水阿弥陀堂の池には大きなコイが棲み、あちこちで音を立てながらエサを奪い合っている。そうした光景は来館者からも好評。阿弥陀堂は1160年(永暦元年)に夫である岩城則道の菩提を弔うために妻の徳尼が建立したと伝えられている。ハスの見ごろは間もなくだが、無料の駐車場も広く、見物は無料。ただし堂内の拝観は有料につき念のため。近くには内郷炭鉱発祥の地もある。資料館も併設されており、ぜひ足を延ばしてほしい。ハスの池と言えば、矢吹町の大池公園もお勧めである。【泰然正文】
                            (2016・6・18)

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