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コラム・筆は一本也

「山野の除染」

福島は農業県であり、そのほとんどは山林に覆い尽くされている。県土面積の約7割を占める山林原野。東京電力福島第一原発事故から5度目の春を迎えたが、放射性物質の除染は生活圏を除けば手付かずのまま。環境省によると「土壌を削れば放射性物質が流出する」との見解だが、立木の伐採やキノコの原木栽培を生活の糧にしている林業農家の救済は無視され続けている。
 
▼放射性物質の汚染にもかかわらず、県産木材の需要は事故前の水準に回復しているようだ。そうした背景には、震災・津波による被災住宅や建築物の復興需要の高まりがある。林業農家にすれば歓迎すべきところだが、作業にあたる農家は放射線量の比較的高い原野での作業を強いられている現実もある。地域差にもよるが、原発作業員並みのいでたちで作業にあたっている人もいると聞く。
 
▼県内でも会津地域は放射線量が低いが、避難指示解除準備地域などでは0.37から3.35マイクロシーベルトもあり、近寄るにはあまりにも危険が伴う。この数値は約1年前の測定値だが、その後は自然低減しているとは言っても安心して作業にあたれる数値ではあり得ないだろう。ある試算だと、山奥まで除染すればゆうに2兆円を超すというから原発事故の影響をあらためて思い知らされる。
 
▼環境省は物理的に困難とばかりにひたすら逃げの姿勢。生活圏から20㍍の範囲の除染は実施しているものの、原野は依然手つかず。この状態だとふるさとへの帰還もままならず林業再生の妨げになるのは目に見えている。 環境省の対応に県は、責任回避は許されないと態度を硬化しているが、ここにきて「里山」と称して急きょ除染を行うことになったらしい。
 
▼住環境の除染は直轄の避難区域を除けばまだ半分強に止まっている。生活圏の除染は当然だが、林業の重要性を認識していない国の甘さ。結局は被災地の現状をしっかりと把握していないところに問題がある。これまでにも指摘しているが、すべての国会議員や関係省庁の幹部は福島の実態を自らの目で確かめるべきだ。「予算のバラまき」と評される新年度予算案も、原発事故後の復旧に当てるのは当然のこと。【天下泰平】
                             (2016・3・9)

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