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コラム・筆は一本也

「歌は世につれ」

師走に入って話題の一つとなるのが、大晦日の紅白歌合戦。66回目を迎える今年は、司会者が紅白、総合と合わせて4人もいるらしい。ところで、自身こだわり過ぎか好みの幅が狭いのか、過日の歌謡曲特番には正直がっかりした。NHKFMで午後1時から放送している特番・歌謡スクランブルでのあれこれ。新聞の番組欄を眺めていたところ、「カバー曲特集」とあった。昭和30年代から昭和末にかけての歌謡曲のヒット曲をオンエアされると言うので、昼食を早めにとってスタンバイしていた。
 
▼この放送はかつて平日に時折聴いていた馴染みの番組。往年のロックンロールやウエスタン特集の時などは自室に込もり、コーヒーを口にしながら1時間聴き入るのが毎度の楽しみだった。エルビス・プレスリーやポール・アンカ、それにギターを手にしたきっかけになったザ・ベンチャーズなどは今も青春の時を思い出し、時間の経つのも忘れてしまうほどだ。さてさて問題のカバー曲のオンパレードの話だが、オンエアされたのは「東京の灯よいつまでも」「ふるさとの話をしよう」「君こそわが命」「骨まで愛して」「柔」などのヒット曲。
 
▼学生時代や社会人間もないころのヒット曲だが、例えば「君こそわが命」や「ふるさとの話をしよう」にはがっかりした。低音で太い声の水原弘や、ウエスタン出身の鼻にかかった声が特徴の北原謙二のヒット曲も、カバーが若手歌手のかん高い声で一気にしらけてしまった。「ふるさとの話〜」はなんと若手の女性演歌歌手がカバー。選曲をよくよく考えて欲しいし、酷評せざるを得ない。持ち歌である本家本元の歌手には、美声でなくとも持ち味がある。それゆえにヒット曲につながったわけだから、カバーはくれぐれも歌い手を誤らないでほしい。
 
▼渡哲也が歌った「みちづれ」。低音で少々ぶっきらぼうな感じのする歌いぶりが、私などはたまらない。齢を重ねて頑固になったわけではなく、前々から好みははっきりしていた。始まりは数十年前に街角で耳にした「霧笛が俺を呼んでいる」。若くして亡くなった赤木圭一郎の映画主題歌だが、そのカバー曲も節回しが誇張されて、曲の持つわびしさ、切なさがまったく感じられなかった。初老のわがままと思ってこれも聞き流してほしい。さて、紅白歌合戦には今年はどんな歌を期待してよいものか。【平々凡々】
                     (2015・12・3)

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