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コラム・筆は一本也

「平和な日本晴れ」

夏休み明けごろから続く秋雨。拙宅の前にあるため池では、数日前から大雨による氾濫を防ぐため水が抜かれていた。それにしても記録的な豪雨は関東、東北地方にかけて大きな被害をもたらした。過日の新聞に、物理学者で天災の研究でも知られた寺田寅彦の格言が紹介されていた。「文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその激烈の度を増す」と。「天災は忘れた頃にやってくる」。明治から昭和にかけて生きた寺田の警句は今にも通じる。狭い国土にこれだけのものが建つこと自体、災害をさらに誘発しているようなものではないだろうか。
 
▼「洞窟の中で暮らす時代は、じっと潜んでいれば暴風も凌(しの)げた。粗末な小屋なら倒壊しても建て直せた。重力に逆らい、自然に抗(あらが)うような施設を造るようになって、建物の倒壊や堤防の決壊に命を落とすようになった」(朝日新聞「折々のことば」より)。相次ぐ台風に加え、低気圧と高気圧、北西から流れてくる寒気などが日本の上空でぶつかり合い、気流が乱れて雨や突風が乱発している。自然の現象とは言え、災害への備えは万全だったのかといつも思う。災害列島にあって、危機管理や防災教育がもっと徹底されてもいいような気がする。
 
▼ところで、この夏の猛暑で被害を被った農家も多いだろう。今度は秋の味覚の季節にして長雨がたたられ、野菜の生育にも異変が続く。品薄から店頭では高値となり、農家同様に消費者も泣かされている。この季節、「女心と秋の空」などと言われ、特に関西から以西の太平洋沿岸部では北東の冷たい風が吹き、長雨をもたらす。女性からすれば、今や「男心と秋の空」と間髪入れずに逆襲されそうだが、澄みわたるような秋晴れが突然どんよりとした曇り空に変わる秋の空は男女の機微、心情の移り変わりに例えられるのもよく納得できる。
 
▼きょう11日は、世界を震撼させたアメリカの同時多発テロがあった日。東日本大震災からは4年半になる。暦では立春から数えて220日目にあたる雑節のひとつ「二百二十日」。昔から台風の襲撃が多く、厄日ともされてきた。台風の被害から農作物を守り、豊作を祈る「風(かざ)祭り」も執り行われている。かつて甚大な被害をもたらした室戸台風や伊勢湾台風は9月に上陸している。台風は「野分」とも呼称し、台風一過の晴天を「野分晴れ」とも言う。大がかりなデモを起こさせないような清々しい秋晴れや日本晴れを迎えたいものだ。【天下泰平】
                (2015・9・11)

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