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コラム・筆は一本也

「帰還への複雑な思い」

新たな物事に興味が移り変わるのは人の性(さが)だろう。4年半が過ぎようとしている東京電力福島第1原発の爆発事故も日を追うごとに風化が進み、もはや国民の最大の関心事は安全保障関連法案の行方か、東京五輪開催に絡む問題に移っているようだ。ともに重要な問題だが、それにしても行き当たりばったりの政(まつりごと)から出たことであり、作為的とさえ言えなくもない。今の深刻な問題さえも手を付けられないでいる中、安易に食指を伸ばしているようなものである。
 
▼どさくさに紛れた火事場泥棒と言っては言葉が過ぎるだろうか。政治家や官僚は口先だけで「丁寧な説明を」などと言うが、そうした以前に国会議員同士が安保法制なりを膝詰めで真剣に話し合ったことなどがあったのか。主権者である国民はまるで蚊帳の外。今度は原発事故の風化をいいことに、九州電力川内原発もついに再稼働。これも議論を尽くした上で、果たして当然の安全が確保されているのか、不安感は拭えない。事故は必ずある。それも取り返しのつかない事故である。
 
▼政府は30年の電源構成比率を原発が20~22%、太陽光や風力、水力などの再生可能エネルギーを22~24%とする目標を決め、原則40年だった運転期間も60年に延長するなど、再稼働ありきだ。経済界に押し切られた感の否めない再稼働の動き。国の命運を左右するほどの事故の反省がこれっぽっちも感じられない。この国は少しも変わらないという失望とともに、被災地や被災者の嘆きは広がるばかりだ。そんな中で福島第一原発から約20㌔周辺にある楢葉町の避難指示が解除された。
 
▼福島第二原発が立地する原発の町・楢葉だが、戻った住民は1割にも満たず。そこには医者もいなく、商店もない。町は、子どもたちが安心して戻れるよう小中学校の再開を2年後の春としているが、現状は厳しい。大手紙の社説には「楢葉町のケースが本格的帰還のモデルとなるよう期待したい」というくだりがあったが、現地を見据えていない上からの東京目線を感じた。帰還について楢葉町長はインタビューで「焦らずに時間をかけて構築に努めたい」と答えたが、その「時間」という言葉に複雑な思いが残った。【一字一句】
                      (2015・9・6)

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