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コラム・筆は一本也

「恩讐を越えられぬ戦い」

明治維新で日本は大きく変わった。武家社会の終わりを告げた歴史の中で埋もれ、汚名を着せられ犠牲となった人も数知れない。147年前の1868(明治元)年の旧暦のきょう、戊辰戦争により会津藩・白虎隊の隊士が飯盛山で自刃している。山から見た城下の炎を城が落城したと思い、隊士たちは自決を覚悟する。16〜17歳の若者で編成した白虎隊だが、この中には年齢を偽って15歳で出陣した者もいたと言われる。こうした悲劇は新政府軍への恨みとなって今日まで語り継がれてきた。
 
▼二本松城下でも少年隊が非業の死を遂げている。白虎隊と比べて、二本松少年隊のことは意外に知られていない。隊員は27人。12〜17歳の少年兵だった。12歳と言えば、あどけなさも残る今の小学6年生か中学1年生。まるで旅立ちかのように楽しそうに戦地に赴いたという。歴史の表舞台には出ることのない話だが、それも逆賊扱いには変わりない。会津藩主松平容保は幕府の役職として京都守護職に就き、孝明天皇の守護に当たっていた。本来は逆賊のそしりを免れない薩長軍と戦ったわけだから、まさか朝敵になるとは思いもよらなかったことだろう。
 
想定外であり、朝敵となった会津人の苦渋はここから始まった。2度目の想定外は140数年後、今度は会津から100㌔先の双葉で起きた。想定外の過酷事故として世界に知れ渡った東電福島第一原発事故。こちらの想定外も福島県民はいまだに納得しかねる。ともに140数年後も間違いなく歴史に刻まれるだろう。戊辰戦争に関しては、「時代の流れを読み損ねた」という指摘もあるが、家訓の「大君の儀、一心大切に忠勤を尽くすべし」を忠実に実行したことが命取りとなってしまった。孝明天皇の急逝も想定外だったに違いない。
 
▼戊辰戦争で付きものなのが、壬生浪士隊を前身とする会津藩預かりの武装集団・新撰組。池田屋事件や禁門の変に関わり、鳥羽伏見の戦いで敗れ、組長の近藤勇が斬首されたあとも会津戦争で戦っている。近藤の墓は会津・東山の天寧寺の裏山の中腹にあり、今も墓を訪れる人は絶えないという。勤王の志士を襲撃した池田屋事件は、映画やテレビドラマなどでお馴染みだが、よく演じられる「階段落ち」はフィクションとされる。討ち入ったのは近藤、永倉新八、沖田総司、藤堂平助の4人。沖田の喀血も実際には血を吐いていなかったと、永倉の手記にある。
 
▼作家の子母沢寛が史実と巷説を現地踏査して書き上げた「新選組始末記」は一読の価値はある。斬り合いも床の血のりで足を取られ、階段から転げ落ちて下からの槍に串刺しになったという文字通り血なまぐさい話も出てくる。子母沢は新選組をニヒリストの集団と総括している。昔も今も戦争は劇画などで彩られ、誇張されたものではないし、残酷さは切り離すことができない。自衛隊の後方支援も同じである。前線よりもむしろ後方の兵站を狙うのが戦いの常道であることはゲーム世代の子どもでもわかる。【天下泰平】
               (2015・8・23)

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