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コラム・筆は一本也

「あかね雲と平和」

520人の犠牲者を出した日航ジャンボ機の墜落事故からきょうで30年になった。羽田発・伊丹着の便が群馬県御巣鷹山に墜落し、生存者は女性4人だった。御巣鷹山には犠牲者の家族や関係者だけでなく、一般の人たちの慰霊登山も絶えないという。遺族らがつくる8・12連絡会が編集したメッセージ集のタイトルから、この日は「茜雲忌」と呼ばれる。真っ赤な夕焼け空が、地獄の炎に化したと思うと言葉もない。あすはお盆の入り。あらためて犠牲者の御霊を祈り、事故が風化せぬよう語り継いでいきたい。
 
▼旧盆中には「終戦の日」もある。今年は戦後70年の節目だが、8月15日は戦争体験者には苦しい思いが呼び起こされる日でもある。昭和20年のこの日正午、終戦の詔書が昭和天皇の肉声でラジオから流れた。天皇の玉音放送でポツダム宣言の受諾とわが国の降伏が伝えられた。2歳にもなっていなかった私は何のことかわからなかったが、仏壇の隣にあったラジオの前に祖父母や両親、近所の人たちが正座して涙を流している姿に驚いたことを思い出す。地上戦があった沖縄では、沖縄戦終結の6月23日が県民のよりどころとして「慰霊の日」を定めている。
 
▼沖縄では多くの少年兵も犠牲となった。少年兵で編成した護郷隊が組織され、志願ではなく軍の命令で戦場へと出された。本土でも少年兵を送り出す計画があったという。男子は15歳以上、女子も17歳以上が対象になったらしい。国の未来を託す子どもを戦争に駆り立て、「一億総特攻」を考えていたこともわかっている。「ひとたび戦争になれば人も国も変わってしまう」。かつて少年兵としてゲリラ戦に参加し、殺傷に関わった古老の言葉だ。ベトナム戦争やテロ事件においても少年兵はいた。戦争の偽ざる現実である。
 
▼幼かったころの灯火管制の怖さははっきりと記憶している。裸電球に黒い布が掛けられ、飛行機の爆音が聞こえるといずこかの班長が「電球を消して」と町内を走り回る。どこの家にも手作りの防空壕があり、ロウソクを頼りに逃げ隠れた。今考えれば里山に抱かれたような農村部を空爆することもなかっただろうが、管制情報下の時代だけに恐れおののくしかなかった。ひとたび戦争になれば、人も国も変わり、茜(あかね)雲さえ烈火の炎となる。平和はそう簡単には取り戻せない。【天下無双】
                 (2015・8・12)

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