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コラム・筆は一本也

「春の平安と武士」

春は何と言っても爛漫のサクラだろうが、野辺に咲くカタクリやイチリンソウ、スミレといった清楚な花々もいい。長かった冬をようやく越し、野山に足を踏み入れれば可憐な花々がいたるところで迎えてくれる。気になるサクラだが、東北はこれからが開花の時期だ。ここ数日の暖かさで九州や中京、首都圏などのサクラはすでに満開となり、ひょっとすると一足飛びに福島県に北上する可能性も高まってきた。待ちに待った桜前線の北上だが、サクラが開花するころには国民病と言われる花粉症も下火になるだけにうれしい花便りが待たれる。
 
▼サクラの開花は福島県ではいわき市がもっとも早い。4月9日ごろには開花宣言がありそうだという。「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく言ったもので、昔人の季節感にはあらためて感じ入る。活動的な春の訪れとともに、農家にとっては農作業も忙しくなる。この時期は作物が遅霜に襲われる心配もあり、のんびりとサクラを愛でている暇もない。天気予報などで見かける桜前線だが、これはソメイヨシノの開花日を予想する等期日線のこと。おおむね九州や四国南部から北海道までひと月半に渡って北上を続けるのが普通だ。
 
▼途中、寒い日が続いたりすると開花日も遅れがちになるが、今度はせっかく見ごろとなったのに、春雨で散り急ぐこともしばしば。なんやかんやで気がもめる。気象庁が発表する「満開」とはおおよそ8割方開いた状態で、「見ごろ」は半分ほど開花した時。それで「開花」は、ひと枝に数輪の花が咲いた状態を指すらしい。福島県内には三春町の国指定天然記念物「滝桜」や郡山市の「紅枝垂れ地蔵桜」、船引町の「小沢の桜」など有名な一本桜をはじめ、並木も釈迦堂川岸、夏井川岸、観音寺川岸、飯野堰堤などこれまた数多くある。
 
▼城や城跡のサクラに寄せる思いはひとしおで、会津若松市の鶴ケ城や二本松市の霞ケ城、猪苗代町の亀ケ城跡などは何度訪れてもいい。「花は桜木、人は武士」という戦気高揚ともとれる古い言葉があるが、城跡のサクラを眺めるたびについ悲劇の戊辰の役に思いをはせてしまう。武士とは「勇敢な人」「つわもの」といった意であり、要は軍事に携わる軍人のこと。それでも、「武」の旁(つくり)は「弋(いぐるみ)=ひものついた矢」を止めるとある。春の平安を壊すようだが、暴走船にはくれぐれもご用心。【天下泰平】
                 (2015・3・30)

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