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コラム・筆は一本也

「カエル文字の思い」

福島の地方紙に「色紙で踊るカエル文字」の記事を見つけ、思わず懐かしくなった。珍しいカエル文字で創作活動に励んでいるのは、元福島県庁職員で三春町在住の渡辺弥七さんだ。八十路入りしても優しい表情は昔と少しも変わりなく、ますますユニークな創作に磨きをかけていると知ってうれしくなった。サクラの候にぜひとも訪ねてみたい。渡辺さんは大阪事務所長などの要職を務めた商工行政のベテランだ。穏やかな優しい笑顔が印象的で、筆者が県政担当記者だったころに毎日のように顔を出しては、渡辺さんの仕事の“邪魔”をしていた思い出がある。
 
▼大阪事務所長を務めた後はいずれは商工労働部長に就く方だろうと思い異動時期の取材では足繁く通いマークをしたことを思い出す。その渡辺さんから一身上の都合から退職を告げられた際はショックを受け、われを忘れて慰留に努めたこともあった。退職した今は、全国的にも有名な国の天然記念物・滝桜の麓に工房を構えて創作活動に励む。サクラ見物の帰りに工房「蛙さんの家」に立ち寄り、作品を買い求める観光客も多い。渡辺さんの人徳がにじむカエル文字には、何ともハッピーな気持ちになるらしい。
 
▼10年ほど前になるが、ある地方紙の社長に就任した人の案内役で郡山市の経済人などにあいさつを済ませた後、滝桜の見物に誘ったことがある。滝桜見物の後に渡辺さんの工房・蛙さんの家を案内したが、カエル文字を見た社長は感激のあまり、驚きっ放しで出されたお茶に口を付け忘れたほど夢中だったことを思い出す。記念に作品をいただいたようだが、それからは会う人ごとにカエル文字の話題を引き出しては自慢気にしていたようだ。それだけ渡辺さんのカエル文字は人を引きつけるものがある。
 
▼渡辺さんがカエル文字を描くようになったのは母親の入院がきっかけだった。「無事に帰る」との思いを込めてカエル文字で手紙をしたためたという。構図や筆致は絵巻物の「鳥獣人物戯画」がヒントになったようである。今では展示、販売のほかに名前なども描いてもらえるとあって子どもたちからも人気の的だ。色鮮やかな踊るカエル文字の作品は、殺伐とした世知辛い世の中だからこそ一服の清涼感があるように思える。来月にはふくしまデスティネーションキャンペーンが繰り広げられるが、福島には隠れた名所がたくさん点在する。【温厚作人】
                (2015・3・6)

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