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コラム・筆は一本也

「冬の草花に思う」

冬場に香りのする野生の草花がないものかと、猫の額にも及ばないようなわが家の庭をひと回りする。すると、香りの元が二、三あったことに気づいた。北風をものともせずに赤い小さな芽を吹き出しているのが寒梅。婚約が決まったころに妻の父母が植栽してくれた。年明け間もなく美しい花を咲かせ、北西の風に乗って香りがわが家を包んでくれる。冬場のえさ不足のためか、小鳥たちが芽を食べている光景も風物詩と思うこのごろ。毎年恒例となったわが家のトピックでもある。
 
▼それにもう一つ。数日前の雪をかぶっているものの、元気に頭をもたげている花がある。毎年自然と増え続けているスイセンだ。北側は陽当たりの良い玄関先の花と比べて成長が遅れているが、殺風景な庭を香り豊かにしてくれるありがたい存在でもある。スイセンの学名は「ナルキッソス」と、解せないような名前。何でもギリシャ神話に由来するとか。美少年のナルキッソスは水面に映った自分に恋心を抱き、やがて天国に召されるが、死後に咲いたのがうつむき加減に水面をのぞき込んでいるスイセンとか。
 
▼美少年のナルキッソスはナルシストの語源になっているが、スイセンにそんな逸話が潜んでいるとは分からなかった。ともかく、あの香しい香りが漂うさまは、多少早過ぎるが春近しを感じさせてくれる。冬場を彩る果樹にタチバナもある。広々とした庭を有する農家の隅に植栽されているが、食用としては適さないらしいが黄色く熟す見栄えは美しい。そう言えば、京都御所には「左近の桜」と共に「右近の橘」が植栽されている。何よりも「永遠」のシンボルとして文化勲章のデザインにも使われている。
 
▼タチバナはこれまた食用には不向きのようだが、食してみると、確かに柑橘系の香りがする。信夫三山暁詣りで知られる福島市のシンボル、信夫山の南斜面にもユズ畑があるが、残念ながら原発事故がまき散らした放射線物質で出荷もままならない事態が続く。冬至には欠かせない一品だが、原発事故の責任を負う国や東京電力の関係者はどこの産地のユズでユズ風呂やユズ湯を楽しんだりしているのか尋ねてみたくなる。香しいユズの効用に冷や水を差してしまった。【平々凡々】
                 (2014・12・26)

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