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コラム・筆は一本也

「歴史の皮肉」

夜長になるにつれ、時の移ろいに一抹の寂しさを覚える。移ろいの早さは、時として数多のものを見捨ててしまうから惨くもある。東京電力福島第一原発事故で避難を強いられている被災者には、はや四度目の冬が待ち構えている。帰村宣言を行った川内村で故郷に帰還を果たしたのはようやく6割。その多くは高齢者と言い、村の復興再生を担う次世代の帰還はそれこそ数えるほどらしい。その高齢者にしても65歳未満の帰還率は3割を下回っており、国の支援策にはほど遠い現況だ。
 
▼川内村は面積の35%が年間積算線量20㍉シーベルト以下の避難指示区域だ。このうち6%が同20㍉シーベルトを超すおそれがある居住制限区域に指定されていた。放射能汚染の高いところでは再び除染が行われる見通しだが、それでも林野の多い地域は大雨などで土壌に付着するセシウムが宅地に流出するおそれがある。それに住宅も長い間の避難で荒れ果てており、かりに帰還したとしても住環境に原状回復にはまだまだ時間を要し、生活に欠かせない商店街や公共インフラの整備は皆目見当がつかない。
 
▼原発事故の被災自治体と復興庁、福島県が先ごろ、浪江、富岡両町を対象に共同実施した調査結果によると、郷里には「戻らない」と答えたのは、浪江町が48・4%に上り、前回調査から10・9ポイントも増えた。富岡町も約半数の49・4%と高い水準で、前回から3・2ポイント増。悲しいかな半数もの人が故郷を見捨てている。住民自らの瑕疵もなく、過酷な運命と出合い、さぞかし無念だろう。こうした現状を国はよくよく把握しているのかどうかは、はなはだ疑問である。
 
▼二間の寒々とした仮設住宅での越冬を考えると、今度は一日も早く住み慣れた故郷に戻りたいと願うのは言うまでもない。だが、故郷にこだわればこだわるほど帰還の夢はあっけなく打ち砕かれることになる。何万人もの人たちの故郷を奪い、民を離散させた東京電力の幹部たちは間違いなく暖かい家々で冬を越す。当初、全社員を交代で被災地に派遣するとしたボランティアもこのところ聞いたことがない。鹿児島川内原発の再稼働も然りだが、のど元過ぎれば何とやらである。それにしても歴史の運命を感じざるをえない。賊軍の汚名を着せられた会津、今度は西南の役にならねばよいが。【天下泰平】
                    (2014・11・9)

 

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