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コラム・筆は一本也

「秋日和も腹立たし」

すがすがしい秋の日和は、自然と気持ちも穏やかになる。つい60年代の日本映画「秋日和」を思い出してしまった。ローポジション影を駆使し、独特の映像世界、映像美を生み出した小津安二郎監督の後期の作品だが、これまで娘役や「東京物語」で若き未亡人役を務めた原節子が初めて母親役を演じた。端役で登場した岩下志麻はこの映画で小津に見出され、続く「秋刀魚の味」のヒロインに抜擢された。そう言えば秋刀魚(サンマ)もその名の通り秋の代名詞だ。


▼この季節、サンマは食卓に並ぶ庶民の味だが、今は昭和の時代と違ってサンマも高くなったような気がする。今年はサンマの価格が高騰していると言われるが、近くのスーパーでは生サンマが1本80〜100円で特売されていた。けっして高価とも思えないが、脂の乗りきったサンマは何よりもジューシー。ダイコンおろしを添え、熱々の白飯によし、筆者の晩酌のお供によしだ。旬の秋サケや秋サバも捨て難い。
 
▼そんな味覚の秋ならよいが、秋晴れから打って変わっての秋雨はどうも苦手だ。秋の長雨を秋雨と称するが、秋霖(しゅうりん)などと堅苦しい言い表しもある。「馬の背を分ける」と言えば、夏の夕立を主に表現する。背の片側は夏空だが、もう片側は雨模様の意。同じように秋雨にはあまり聞かない「私雨」(わたくしあめ)という表現もある。局地的に降る雨で、どちらかと言えば山沿いで見られる現象だ。その昔は「箱根の私雨」「比叡の私雨」など山の名前を付けて呼んでいた。
 
▼冬になると「颪」(おろし)がよく使われ、福島県でも「磐梯おろし」「安達太良おろし」「吾妻おろし」、それに「那須おろし」も加えたい。高原は落葉樹の紅葉も終わりが近づき、寒気を感じる。間もなく野分が吹き荒れ、福島県内も初雪の便りが届くころになる。日没の早さもあって憂うつな気分になるのは秋雨の仕業。五風十雨だとあきらめもつくが、せめて政(まつりごと)で低レベルの中傷合戦はやめてほしい。そんなことに国民が税を払わされていると思うと腹立たしくなる。先人によく学び、秋晴れのような天晴れな論戦を願いたい。【日々好日】
                     (2014・11・4)

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