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コラム・筆は一本也

「忘れてならない事」

「ほとんどの人が立場を超えて共有したであろうその認識が、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から3年半たった今、薄れてきたように思える」。福島県いわき市出身の社会学者開沼博さんら3人の識者が、薄れゆく震災後のありようを新聞にコメントとして寄せていた。開沼さんは「毎年行われてきた震災関連のフォーラムが3年を区切りに終わるなど、情報を拾い発信していこうとする社会の動きが消え始めている」と、人々の関心の希薄化を指摘する。
 
▼開沼さんはさらに「同じような傾向は、阪神淡路大震災や茨城県東海村のJCO臨界事故に後にも見られた」として懸念する。2人の作業員が死亡し、周辺住民ら660人以上が被曝したJCO臨界事故が起きたのは1999年9月30日。間もなくその事故から15年を迎える。核分裂が連鎖し、続く臨界が起きた日本初の被曝事故でもある。それから12年後、120㌔余り離れた福島第一原発で起きた世界でも例のない1号機、3号機、4号機の連続爆発事故。
 
▼筆者は奇遇にも以前勤めていた新聞社のいわき転勤で、JCO臨界事故、福島第1原発事故とそれぞれの状況を経験した。それだけに放射能の事故に対する教訓が生かされなかったことを今も悔やんでいる。JCO臨界事故当日、政府の情報収集は遅れ、さらに現地、科学技術庁、首相官邸と対策本部が乱立し、混乱に拍車をかけた。それから12年、福島第1原発でも情報は乱れ、震災とあいまって情報も入らなくなり混乱は極限に達した。少なくとも12年前の教訓は皆無に等しかった。
 
▼震災・原発事故から9月23日は4度目の秋彼岸を迎える。秋彼岸が近づくと目につくのが彼岸花だ。今は落ち着いてようやく目に入るようにもなった。日当たりのいいあぜ道、土手や墓地などに真っ赤な花を咲かせた彼岸花が突然現れる。曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の異称があり、どんなに不順な気象のもとでも彼岸になると咲き誇る。墓地に多く見られ、「死人花」「幽霊花」とも呼ばれる。とにもかくにも、あの特異な花の形は印象に残る。この彼岸、知人だった吉田昌郎さんにも遠方から線香を手向けたい。【不撓不屈】
                    (2014・9・17)

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