目に見えない心の内を抽象的な作品で表現した、戦後日本の銅版画のパイオニア、駒井哲郎の回顧展「駒井哲郎1920‐1976」が2月１２日まで、郡山市立美術館で開かれている。
　駒井は１９２０年東京生まれ。旧制中学在学中、当時「日本エッチング研究所」を主宰していた西田武雄のもとで銅版画の技法を習得した。
　今展は、資生堂名誉会長・福原義春さんが収集した約５００点のコレクションを、総入れ替えの２部構成で展示する。
　現在開催中の第Ⅰ部は「若き日のエッチャーの夢」と題し、１９３５年から６０年までの作品を紹介している。
　駒井の初期の作品は、「エッチング」の技法を用いた銅版画が中心。エッチングは「ニードル」という針状の道具で銅板に絵を描き、線描した部分だけを薬品などで腐食させることで凹面をつくる技法だ。
　同美術館の杉原聡主任学芸員は「エッチングは木版画と違って、緻密な線を表現できる。繊細な表現力が魅力」と話す。
　1951年、エッチングの作品「束の間の幻影」がサンパウロビエンナーレでコロニー賞を受賞し、世界的に高い評価を得た。53年には郡山市出身の作曲家湯浅譲二の曲「レスピューグ」をイメージして一連の水彩画を描き、曲に合わせてスライド上映する、斬新な試みにもチャレンジしている。
　精力的に活動していた駒井は54年、銅版画の新しい技法を学ぶためパリに留学するが、ヨーロッパの版画技術の素晴らしさに圧倒され、自信を喪失して帰国する。その後、交通事故で療養生活を余儀なくされ、芸術家として辛い日々が続いた。
　１月25日から開催される第Ⅱ部は「夢をいざなう版の迷宮」と題し、挫折から立ち直り、さまざまな模索を繰り返しながら前に進み始めた６１年から亡くなる直前の７６年までの作品を展示する。
　これまで、モノクロの作品を中心に制作してきた駒井だが、この時期から多色刷りの色鮮やかな作品を発表するようになる。
　第Ⅱ部には、版にインクや油絵具で直接絵を描く「モノタイプ」の作品が数多く出展。
　Ⅰ、Ⅱ部を通して、初期から晩年の作品まで順を追って見ていくことで、「駒井の創造の軌跡をじっくり味わうことができる」という。
　会期中のイベントは次の通り。
　講演会「在りし日の駒井哲郎」（１月２２日午後２時、参加無料、講師は版画家で東京芸術大学名誉教授の中林忠良氏）▽美術講座（１月１５日・２９日午後２時、参加無料、講師は同館学芸員）▽ギャラリートーク（１月１４日・２８日午後２時、要観覧券、講師は同館学芸員）▽映画上映会「母たち」「薔薇の葬列」（２月１１日午後２時、観覧無料）
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　会期は第Ⅰ部が１月２２日まで、第Ⅱ部が１月２５日から２月１２日まで。観覧時間は午前9時30分～午後5時。月曜日休館。観覧料は一般５00円、高校・大学生３00円。65歳以上か中学生以下、または障がい者手帳を持つ人は無料。
問い合わせは、郡山市立美術館（電話024・956・2200）へ。