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コラム・筆は一本也

「秋はひたひたと」

処暑も過ぎ、朝方はめっきりと初秋らしい涼しさが感じられるようになった。そうした中、広島市で20日未明に起きた土砂災害は死者50人、行方不明者38人(24日現在)という大惨事を招いた。犠牲者のめい福を祈りたい。これから前線による大気の不安定な状態が続き、局地的に激しい雨のおそれがあるというから、雨で地盤が緩んでいるところは土砂災害にさらに注意警戒が必要だ。
 
▼この夏は熱帯夜もあって熟睡も果たせなかったが、今度は明け烏(あけがらす)が目覚まし時計代わりに起こしてくれる。ともかく早寝早起きが常態化したこの夏だった。地上にはい出した短命のセミも、台風一過を待ちくたびれたように一斉に鳴き出した。涼しさを感じさせてくれるのはやはりヒグラシが一番だろう。早朝や日暮れ時分に「カナカナカナ」と涼感タップリに鳴き声を聞かせてくれる。
 
▼やがて現れるのがツクツクボウシ。鳴き始めと終わりにジーッと耳障りな鳴き声も聞かせるが、わが天下とばかりに去りゆく夏を惜しむかのような力のこもった鳴きっぷりは定評。セミばかりではない。立秋も過ぎて日暮れが早くなったせいもあるが、近くを通る福島市の国道4号の排気音がやや静かになったころに、雑草の生い茂った猫の額ほどの庭から虫の音も聞こえるようになった。虫の音はたぶん、コオロギの類いと思われる。
 
▼秋に鳴く虫の音は、江戸時代には「花、月、菊、雪」と共に五つの風流ともてはやされていたようで、なかなか寝付かれないこれからの熱帯夜には窓を開け、虫の音と涼風を感じ取るのもお勧めだ。 浜辺では台風などがもたらす波が海岸沿いで崩れ、空気を巻き込んで発する海なり、それに浜風に揺れる海辺の旅館、民宿などの風鈴の音も癒やしてくれそう。過ごしやすい秋は忍び足で近づいていることも確か。秋の夜空の星や美しさを増す月を拝みながら、去りゆく夏を惜しむのも一興だ。【風流凡人】
                   (2014・8・25)

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