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コラム・筆は一本也

「変わらずの能天気」

「わが土地に結界をなす柵ありて 風は静かに行きて来しており」。福島第一原発事故で富岡町から避難している女性が詠んだ一首だ。柵がかかり立ち入りができない目の前のわが家の田んぼ。風は静かに行き来しているのに、そこに主は立ち入れない。荒れ田を目の前にして詠んだ詩(うた)だが、作者の切ない気持ちがひしひしと伝わる。NHKの日曜討論を見終わり、そのあとの番組「明日へ 三十一文字の思い〜梅沢富美男と震災の短歌〜」で紹介された。
 
▼「集団的自衛権、安全保障…云々」と、政治家のご説を聞き、耐えたあとの番組だっただけに、被災者の詩がことさら心に響いたのかもしれない。震災・原発事故は思いもよらぬ「方向」で、しかも早い速度で風化しつつあると思う。すでに「対岸の火事」なのか。その大罪の原発事故だが、今秋にも「事故の可能性は低い」として原発再稼働が現実となる見通しとなった。九州電力川内(せんだい)原発の1、2号機で来週にもゴーサインが出される可能性が強まった。未曽有の大惨事となった東京電力福島第一原発の爆発事故が招いた悲劇は年を重ねるごとに薄らいでいる。
 
▼昨年7月の新規制基準施行後、これまでに計12原発の19基が原子力規制委の審査を受けているが、川内原発は初のクリアとなる。地震や津波対策が他の原発に比べて整備されていることなどが評価されたものだが、安全性が国として保証できるのかという最大のネックは払い切れていない。裏を返せば、100%の安全はないことから事故が絶対にないとは言い切れないということになる。その安全性も、あくまで国内の他の原発に比べてという、曖昧な点も留意しなければならない。
 
▼再生可能エネルギーの促進を呼びかけながら早期の原発再稼働を目指すのは、電力会社の経営上の都合だけでなく、経済界の強い要請が背景にある。円安などによる化石燃料の高騰で電力使用料が高止まりし、多くの企業が厳しい経営を余儀なくされていることも要因にある。しかし、目先の経済優先から何もかもすべてをなくし、国家危機に至った3年前を忘れてはならない。その原発事故はまさに国が崩壊する一歩手前だった。その原発の、国の危機は今も続いている。
 
▼福島第一原発から西に約8㌔先にある大熊町の野上1区は「帰らない宣言」を町に対して宣言した。全域が帰還困難区域となっており、放射線量の低減が見通せないだけにその判断に異論はないだろう。除染効果が低い地域では、今後「帰らない宣言」に踏み切るケースが相次ぐ事態も予想される。川内原発の再稼働に地元の鹿児島県や国、規制委は福島の有り様をどう捉え、反映させているのか真意が知りたい。まさか、アンダーコントロールされていると思っているわけではないだろう。【視界不良】
                  (2014・7・10)

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