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コラム・筆は一本也

「数多の穢れと対峙」

〈天地の働きには「生」だけがあって「死」はない。生の終わりを死というに過ぎない〉。江戸の町民儒者・伊藤仁斎が「語孟字義」に書き記している。学校法人昌平黌(福島県いわき市)の孔子祭に招かれ、知悉(ちしつ)の専門家から教わった。自己統一への欲求から限りなく自己分裂に陥った仁斎が、悩み抜いた末にようやくたどり着いた境地―と解釈した。仁斎は29歳~36歳にかけて7年間、近所の小宅に隠棲、引きこもりしている。そうした中で他者との関連性に気づき、生命の賛美を見出している。世間との隔絶、引きこもりといった落とし穴から脱却し、“天地生死”へとたどり着いたのではないかと、柄にもなく黙考した。
 
▼悪夢の大震災・原発事故から3年3カ月の歳月が過ぎたが、子や孫、親を亡くした人たちは希望を失ったまま、今も救われない心の日々を送っているのかと考えると、いたたまれなくなる。そうした中、心ない失言、誹謗中傷は“別世界”で終わることなく続いている。そんな思いを深くしたきょう21日は夏至だった。一年で最も昼間が長く、夜が短い日である。秋の夜長は知られても、短く明けやすい夏の短夜(みじかよ)は今ひとつなじめない。俳句ならば夏の季語として定着している夏至だが、例えば東京なら冬至に比べると約5時間も夜が短くなるという。
 
▼この時季になると、夜明け早々からウオーキングに汗を流す人たちが目立つようになる。いま時分は、ワラビ、ゼンマイから今度はフキなどを目当てに山に入るマニアも多くなる。山菜ブームなのか、山菜採りに夜明け早々に山に入る人たちが目立つという。福島県内でも行方不明騒ぎが相次いでおり、警察署は、携帯電話や無線機の携帯、それに一人での入山は避けるよう警告している。登山の場合も滑落や道に迷ったりした場合に備え、携帯、無線機は必携―と喚起している。それでも、不注意は後を絶たないようだ。山のベテランに限り、「宝の山」とばかりに家族にも教えたがらないという。他者との関係をいま一度考えてもらいたい。
 
▼今年もあと10日ほどで折り返しの半年となる。大晦日の「年越の祓(はらえ)」に対し、30日の「夏越(なごし)の祓」が近づく。あちこちの神社で祭礼が執り行われるが、善男善女たちは過ぎ去る半年の穢(けが)れを落とし、残る半年の無事息災を祈る。神社境内に設けられた「茅の輪」をくぐり抜けて祈願するが、数多の世の穢れから身を守るためにもぜひ茅の輪を無事くぐり抜けてほしい。やまぬ風評、他者を傷つけても何も感じない政治家、次の世代の子や孫を死に追いやっても平気な輩…。こうした「穢れ」と確(しっか)と対峙して年の後半を迎えたい。【天地神明】
                (2014・6・21)

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