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コラム・筆は一本也

「一強多弱と一強他弱」

「一強多弱」という言葉が盛んに使われているようだ。NHKが放送直前に「一強多弱」と「一強他弱」のふたつの表記が混在していたとして、現場でちょっとしたハプニングがあったという。「現状の描写としてはどちらも正解のように思える」とキャスターの大越健介さんがブログに書いていた。どちらも当を得ていると思う。村山富市元首相は先ごろ、BS日テレの番組に出演し、自民党の「一強多弱」の現在の政治状況に強い懸念を示したという。

▼その村山元首相は「安倍首相オンリーで決められていく格好となっているのが残念」。野党側についても「与党か野党かわからない政党ばかりで、抵抗する力になりきれていない」と批判したという。党内の反発もなく、「一人(独り)天下」の感がある独断専行の安倍首相だが、円転滑脱(えんてんかつだつ)といえば聞こえはいい。しかし、実態は側近以外の声には耳を傾けず独善的、自画自賛の総理大臣のようだ。一度、政権運営に失敗しているから、捨て身の覚悟でもって怖いものが存在しないのかもしれない。
 
▼不思議なのは、いかに党が決めたこととはいえ、反対する議員の声が国民には聞こえてこない。委員会や本会議での可決で党議拘束もやむを得ない面はあるものの、所属議員すべてが「同床異夢」ならぬ「同床同夢」とは信じ難い。棄権や退席したりしてささやかな抵抗に走る議員もいるが、直ちに党規違反で処分され要職を棒に振る議員もいる。ともかく、政権党の厳しい沙汰に縮こまっているのか、どうか。そうであれば、日本が今どういう状況にあるのかをよくよく考える必要がある。
 
▼消費増税が決まったすぐあとに憲法の解釈変更による集団的自衛権の行使容認。やらせ、自作自演、八百長などと批判が飛び交う私的機関の安保法制懇だが、有識者は全員が解釈変更の容認派。まさしく結論ありきの見せかけの集まりだ。ひとりくらい反対があるのかと思っていたら、全員賛成のあっけない幕切れだった。国民の過半数が反対している解釈変更だが、過去にも「戦力とは自衛のための必要最小限度をこえるもの」(1972年・田中内閣)、「改憲の動きは当然で望ましい」(80年・奥野法相)などの政府見解があったことも事実。

▼それでも重ねて異議を唱える。時の内閣が国民の総意を表す総選挙も行わずに自由自在に憲法の解釈変更をするという不見識極まりない手法は、法事国家の根底をないがしろにすることであり、とても容認出来るものではない。国民の代表である国会議員の意思表示が今後の焦点となる。明治時代の桂太郎首相の「にこぽん主義」のように、肩をたたかれて懐柔手法に乗るような議員諸公ばかりではないと思うが、うっとうしい梅雨時の審議のゆく末に注目したい。【天下無双】
                 (2014・5・22)

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