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コラム・筆は一本也

「アメとムチ」

「飴と鞭」(アメとムチ)。ムチを前者、アメを後者に例えた言葉だが、為政者の国民懐柔策としても知られる。「弾圧法規を制定しながら、一方で国民生活に役に立つ政策を実施すること」と辞書にある。ドイツ帝国の「鉄血宰相」ビスマルクによる政策を評価した言葉が定着したとされるが、英語では「carrot and stick」(ニンジンと棒)。心にもない言葉で人をほめちぎり、欺きながら他人を操るさまも同じではないだろうか。
 
▼東京電力福島第一原発事故の被災に遭った福島県で、「飴と鞭」を想起させる出来事がある。県内の除染で出た汚染廃棄物を保管する中間貯蔵施設の建設受け入れを前提に、環境省は原発立地町の大熊町と双葉町に交付金を設ける話を持ちかけてきた。被災地の復興、振興策として打ち出したもので、使い道の自由度の高い交付金だ。うたい文句はともかく、40数年前にも同じようなアメがあったのではないか。建設のためのアメから今度は後始末のためのアメ。県民としてやりきれない思いだ。
 
▼溜まる一方の汚染物質は、福島県内のあちこちの仮置き場に山積みされている。それだけに1日でも早く建設地を決めたいとする国の方針は理解できないでもない。しかし、先を見越した確約がなければ、最終処分場となってしまうなどの不安要素もある。避難者が故郷に帰還するためには、徹底した除染と貯蔵施設の早期建設がまずもって必須条件。それだけに国はあの手この手で被災自治体の説得にあたっているが、今回の提案では課題となっていた土地の貸借にも検討を約束した。
 
▼受け入れ時期までには交付額を決めたいとしているが、1,000億円を超えるとの見方が有力で、とてつもない大きな「アメ」に両町長も前向きな姿勢を見せている。住民説明会や議会に打診したうえで判断することになりそうだが、決まれば最長30年は故郷に放射性物質が保管されることになる。保管をムチと考えるか、両町民らの判断に注視したい。来年1月の搬入開始をもくろむ環境省の奇策がアメとして歓迎されるのか、それともムチとして火ダネとなるのか。この半世紀余の歴史が教えてくれそうだ。【清濁混合】
                      (2014・4・28)

 

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