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コラム・筆は一本也

「次代につなぐ」

慣れ親しんだ故郷。安住の地へとお年寄りたちは帰ろうとする。しかし、若者は帰らない。そんな構図が一気に進んでいる。今の福島県の現状であり、一断面だ。東京電力福島第一原発事故に伴う田村市都路地区の避難指示が1日、解除された。第一原発から半径20㌔圏の旧警戒区域では初めての解除だが、不安はぬぐいきれず、対象の117世帯、357人のうち、はたしてどれだけの人たちが故郷に帰還するのか。
 
▼都路地区は昨年夏から長期の宿泊が認められてきた。だが、国直轄で行われた除染に関しても地域によっては依然として空間放射線量の高い所がある。日常生活に欠かせないインフラ復旧も進んでおらず、多くの人は再除染やインフラ整備を待っての帰還判断となりそうだ。それにしても、住環境が原状回復していない中での帰還促進は、国の冷酷さを感じる。安倍首相は、今度はじっくり被災者の生活環境を視察し、政府高官らには長期滞在を勧めたい。
 
▼そうした滞在費用は、捨て銭のような除染費用からいくらでも捻出できるだろう。国会休会中の与野党の夏期研修なども福島の地で開催することを提案したい。まして政治家ならたやすい選択だろう。特に福島を蔑ろにした発言を行った諸君に来てほしい。そこで、被災者の話にじっくりと耳を傾けてはどうか。民の意志を無視した原発の再稼動がこの秋にも九州電力川内原発で実現しそうだが、その前にぜひ夏の合宿をと言いたい。
 
▼福島第一原発の爆破事故は、地震による原子炉周辺機器の亀裂も主たる要因のひとつとされる。地震大国での原発事故のトラブルはこれからも続くだろう。事故が起きることはあっても、事故が起きない保障はない。長年の「安全神話」はもろくも崩れ去った。悲劇を繰り返すことは許されない。先祖代々引き継がれてきた故郷も、こういう現状ではいつしか消滅するだろう。酷だが、新天地に目を向けて次代につないでゆくことも考えてほしい。【泰山鳴動】
                    (2014・4・2)

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