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コラム・筆は一本也

「新天地か、故郷か」

東日本大震災と大津波、さらに東京電力福島第一原発の爆発事故に伴う放射能汚染で、福島県相双地方が存続の危機に立たされている。復旧は大幅に遅れ、荒廃も急速に進んでいる。福島第一原発から20㌔圏内で、相双地方で最も多い約7万1千人が暮らしていた南相馬市。原発事故後は大半の住民が避難し、人口は今も約4万3千人と激減したまま。市街地はゴーストタウンのようなありさまだ。
 
▼高速道・常磐自動車道が前倒しで早期に全線開通(東京–仙台間)するといった話題もあるが、避難者にとっては高速道の開通よりもまずは故郷の住環境の整備が最優先だろう。帰還には公共インフラの整備とともに、除染の徹底が最低条件であることは言うまでもない。国は4月の田村市都路地区の帰還を契機に他の自治体にも早期帰還を働きかけているが、放射性物質から身を守る安全基準には大いに疑問が残る。
 
▼放射能汚染対策で国は当初、年間1㍉シーベルトとしていたが、帰還の動きが出始めると年間20㍉シーベルトに引き上げた経緯がある。遅々として進まず、効果の上がらない除染だが、何よりも落ち葉とともに潜む広大な山林原野、農耕地の放射性物質の問題がある。林野の除染は実際着手されていないし、帰還の希望もたちどころに失せてしまう。国は帰還が遅れると東電の賠償金が膨れ上がることを懸念しているのか、早期の帰還をとにかく進めようとしている。
 
▼国は高濃度汚染物質の中間貯蔵施設でも、設置は土地の国有化を前提にしている。借り上げ方式でなければ最終処分場になる可能性がある。一歩も譲れない話だ。原発建設では「安全神話」を流布し、今度は住民帰還で新たな安心神話を作りだそうとしているのか。鉄面皮もはなはだしい。福島原発は収束したわけではなく、危機は今も続いている。避難者全員、全世帯の転居先を確保し、新天地での生活を補償する姿勢を明確にしなければ、早期帰還などとても納得出来ない。【天下無双】
                         (2014・3・19)

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