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コラム・筆は一本也

「獅子身中の虫」

科学の発達していなかった昔は、人の体の中に虫がいるものと思われていた。「腹の虫が治まらない」「虫の居所が悪い」「虫が騒ぐ」などの言葉の羅列のごとく、体内の虫が意識や感情を遠隔操作しているものと想像していたらしい。6日は二十四節気の一つ「啓蟄」。土の中で冬を越していた虫たちが暖気に誘われ、顔をのぞかせ動き始めるころだ。「虫出し雷」とも言われ、昔の人は雷に驚いて外にはい出してくる、などとも考えていたという。


▼山菜好きな人にとっては、雪解けを待って秘密の山に忍び込む季節の到来だ。ワラビやゼンマイなどの山菜がちょっぴり恥ずかしそうに顔をのぞかせる。「春には苦みを食べる」とも言われ、山菜の苦みが冬の間に溜まった老廃物を排出させる役目を果たしてくれる貴重な恵みでもある。しかし、山菜類は放射能汚染による出荷停止など、風評被害の代表格になっている。山菜採りの楽しみも悲しきかな。
 
▼このところの気象は紆余曲折しており、例年なら三寒四温を繰り返しながらポカポカ陽気となってくるのだが、この冬は偏西風の特異な動きもあって、6日からは「七寒」と真冬並みの寒気となるそうだ。まさに異常気象だ。福島県の中通りの週間予報をみると氷点下4度の寒さが続き、東日本大震災があった11日もマイナス5度。3年前のあの日の朝も寒く、チラホラ雪が舞っていた。そして地震直後、県内のあちこちで突然の吹雪となった。天のお告げのように感じた人も多かっただろう。
 
▼暗示するかのような大津波、原発事故…。犠牲者を弔う間もなく、沿岸部らの人たちへの避難命令があり、その人たちはいまだに異郷の地で仮の暮らしを強いられている。雪解けが進み、凍結時期に中断していた除染作業も各地で再開された。巨費を投じているほどにはさほど線量も下がらず、爆発前の住環境には戻ることはまずあり得ない。これで「日本の再生」が果たせるのだろうか。災いを及ぼす「獅子身中の虫」は、いったいどこに。【身中之虫】
                      (2014・3・6)

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