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コラム・筆は一本也

「もやもやした思い」

東京電力福島第一原発事故から2年8カ月を経て、何やらそろりそろりと動き出してきた。思考停止状態から抜け出したのはいいが、今回提示した政権与党である自民党の政策提言の内容が何ともお粗末だ。避難者の帰還について、提言は「故郷に戻りたくない」とする意思も選択肢のひとつとして評価するとした。行き場のない閉塞した避難生活も3年目を迎える。自民党はここら辺がタイミングの時期とでも思っているのだろうか。

▼持久戦のように相手を観察し続け、出した結果がこうである。原発事故被災地での年間被ばく放射線量と除染目標の実質的な緩和も併せて検討し始めた。原子力規制委員会の検討会が今月11日、「住民の帰還には積算線量が年間20㍉シーベルトを下回ることが必要」とする帰還対策の提言案を了承。「待っていました」とばかりに1㍉シーベルト撤廃に向っている。たいした議論も、説明もないままに動き出している。

▼ことは1㍉か20㍉の問題だけではない。一部の関係機関のみで、広く議論を交わすこともなく、あれよ、あれよと進んでいく。現に原発再稼働にしろ、経済連携協定のTPPにしろ、待ったなしで突き進んでいく。被災地に住む福島県民だけでなく、国民全体がすでに蚊帳の外に置かれているわけである。こうした閉塞した状況を察してかどうかはわからないが、小泉元首相が不退転の覚悟で「原発ゼロ」を鮮明にしている。

▼朝日新聞は13日付の解説記事で小泉氏の発言が注目されていることをこう表現した。「多くの人が感じるもやもやした思いを代弁しているからだ」と。もやもやした思いは昭和の初めにもあったと聞く。それは閉塞感から始まり、しまいには戦意高揚へとつながるわけだが…。今国会で矢継ぎ早に重要法案が提出され、間隙を縫うように特定秘密保護法という後戻りのできない法案が強行採決されそうな雲行きである。【天下泰平】
                                           (2013・11・15)

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