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コラム・筆は一本也

「襲われた東北」

「まだ、東北は植民地である」。東日本大震災復興構想会議委員を務める民俗学者の赤坂憲雄氏(60)が放った言葉だ。赤坂氏は震災後、被災地の方々を歩いて東北をこう感じたと言う。かつて在野の研究者として、震災以前から「東北学」を提唱していた赤坂氏の講演を聞いたことがある。大震災があった前の年だったように記憶する。赤坂氏は講演の中で、限界集落と滅びゆく里山を、警鐘を鳴らしながらも、自然と人との共存関係を穏やかな口調で静かに語りかけていた。

▼赤坂氏は福島県立博物館の館長も務める。震災から1カ月後、東日本大震災復興構想会議委員に就き、被災地などでの講演やシンポジウム、著作活動などを重ねている。東北学という分野を切り拓いた赤坂氏は震災後、「東北は植民地である」と感じるようになったと発言。京都の送り火における被災松の薪問題や、東海テレビの「セシウムさん」事件などについて、名古屋、京都、福岡を<中世以来の、ケガレと差別の風土が濃密に残る土地柄である。わたしは「差別なき東北」を誇りに思う>として福島民報の紙上で批判した。

▼東北人が今ほどに、立ち止まって東北を考えた時期はないのではないだろうか。一括りで東北を言い表すことは不可能だが、強いて言えば日の当たらない、虐げられた地域とも呼称できるだろうか。それだけに、地味であり、粘り強い東北人のイメージが形成されていったのかも知れない。口数が少ない、人をかき分けてでも前に出ない、おとなしい、忍耐強い。マイナス面もあるが、とにかく美徳的に受け止められているのが東北人だ。赤坂氏でなくとも、東北は差別のない、少なくとも差別意識の薄い地域であるような気がする。

▼震災、津波、原発事故と未曾有の災難に遭遇したのは東北、福島だけではないと思う。むしろ日本人全体が受けた試練である。だから、日本がひとつに復興に向わなければと思うのだが、実際は東北のこととして、他人事のように捨て置かれている気がしてならない。そうした「運命」と言うべきものが東北には内在してきた。この国を変えなければならないという思いと、変えられぬ思いが重なり合って東北人を支配している。そうした寂寞の思いに襲われる。

▼これからは「襲われた東北」を乗り越え、汚れのない新しい東北が創造できる要素を、この地方は限りなく持っている。赤坂氏が唱える、日本を開く「東北ルネサンス」もそうであると思う。書評の中で識者が指摘していたが、中央が東北にもたらした負の歴史をあらためて振り返るべきである。後ずさりでも、後ろ向きでもなく、「現実」に目をそらさず、この地から発信したいとも思う。そこから見えてくるものは、文化であったり、産業でもあったり、あるいは今の農業、原発問題へと向かうかもしれない。【衆寡不適】
                                                                     (2013・10・9)

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