北朝鮮の金正日（キム・ジョンイル）総書記の死去報道から1週間。これからの動向は、後継指名を受けた三男正恩（ジョンウン）氏を中心とする集団体制に移行していくように思えるが、17年にわたり強権支配してきた独裁者の突然の死だけに、今後、不測の事態も起こりうるのではないだろうか。とりわけ、若い正恩氏が権力を掌握するには相当の時間がかかるだろう、とするのが専門家や識者の共通した見方だ。

▼それにしても、首都・平壌（ピョンヤン）市街などあちこちで嘆き、泣き叫ぶ人の映像が流れた。映像を見ていて、彼らが心から嘆き、号泣しているとは到底思えない。最前列や前列辺りで映る人の動作を演技と思うのは筆者だけだろうか。

▼10年前、韓国観光公社の招きで、北朝鮮の金剛山（クムガンサン）観光登山ツアーに参加した。祖国統一を願う人たちとの琴線に触れた旅でもあったが、同じ民族でありながら、2つのあまりにも違うものを見たような不思議な感覚を覚えた▼登山行程は行きも帰りも当局の監視下にあった。随行者は男性だけでなく、若く美しい女性もいた。当局の教育を受けた精鋭たちだろうが、温和な表情で、優しい人たちだった印象がある。演技とは言わないまでも、当局の指示で動いているのには違いなかった。

▼途中、バスから金網越しに眺める風景は実に牧歌的で、たまに黒毛牛を引いた農民の光景が目に留まる。かつての日本の農村風景がそうであったと思い起こされる。だが、実際は生活苦にあえぎ、抑圧された国民がそのほとんどと聞く。「近くて遠い国」が開かれた国となるよう、そして拉致問題などの一日も早い解決を願うばかりだ。【笑止千万】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2011・12・23）