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コラム・筆は一本也

「瑞穂の国の悩み」

秋草の中から聞こえてくるムシの音、風に揺れるススキ、ウロコ雲…。秋の気配、装いはそこかしこに見られる。炎暑だった猛烈な夏も去り、気がつけば自然は確実に移ろいでいる。月並みだが、秋を形容すれば食欲、スポーツ、芸術と並ぶ。自然豊かな福島県の山々はこれから錦秋色に染まり、豪華絢爛な絵巻を堪能させてくれる。深まりゆく秋が待ち遠しい。9月7日は「白露」。秋の気配は一層濃くなり、草木に朝露がつき始めるころ。

▼農業県である福島は水稲をはじめ、リンゴ、ナシ、ブドウなどの果物も豊作が見込まれ、文字通りの実りの秋を迎える。近ごろは滑稽な案山子の姿もあまり見かけなくなり、田園風景を眺める楽しみがひとつ消えた。それでも、秋風になびく黄金の波は「瑞穂の国」にとって今も残る風景だ。瑞穂とはみずみずしい稲穂のことであり、「豊葦原千五百秋瑞穂国」(とよあしはらの ちいおあきのみずほのくに)は日本の国の美称でもある。

▼そんな長閑(のどか)な美国の実りの秋に、冷や水を浴びせる心無い人たちがいる。豊作の喜びを消し去る不安の種は尽きない。東京電力福島第一原発の爆発事故で広範囲に巻き散らかされた放射性物質は、たわわに実った天の恵みを根こそぎ収奪している。先ごろ、早稲種のコメが福島県二本松市で出荷されたが、事前の検査で検出結果はゼロ。生産農家もひとまずは安堵するが、あとは全袋検査で基準値をクリアするのを待つしかない。

▼漁業などへの影響が深刻な汚染水の流出問題。今ごろになって国は「国策で推進してきたから国の責任で処理する」という。昭和40年代の稲作減反、戦後の食糧増産も国策。かつて公害を引き起こした企業も、もともとは国策で立地、操業しているケースが多い。東電だけがもし例外扱いされれば、たんなる責任逃れにつながる恐れも。「加害者の責任を果たさない企業に原発を再稼働する資格はない」とする泉田新潟県知事の言葉は重い。【天下無双】
                      (2013・8・30)

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