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コラム・筆は一本也

「覆水盆に戻らず」

いまだに異郷の地で15万人もの福島県民が避難生活を送る。東京電力福島第一原発の爆発事故から間もなく2年半が経つが、福島県は非常事態にあるのか、それともそうではないのか。1県民として判断のつかないことが多くある。放射線量、内部被ばくのことに始まり、今もって除染が手つかずの山林原野、生活時間の多い各家々の除染、放射能汚染水の海への流出、地下水脈汚染の恐れ、そして農林漁業の将来はどうなるのか。

▼これらのことを取り上げ、思いめぐらしたら切りがない。とても福島には住めないと、そう考えてしまう。若いお母さんたちが子どもを連れて福島の地を離れるのも当然かも知れない。残念ながら福島から発せられるのは根拠のない安全と、復興の大合唱。100%の安全はないし、必ずリスクも伴う。そうしたさまざまな声を集約し、外に向かって訴えるすべを福島は持たない。安全へのとらえ方はそれぞれ異なる。それを「自己責任」として片づけてしまう。

▼福島県によると、除染が終了し、放射線量が低減した地域への帰還で、避難者数はやや減少傾向にあるという。一方で、県外に避難する人はいまだに5万人を超えている。多くの人がストレスを抱え、不自由な生活を送っている。一緒に生活していた親、子、孫が離ればなれとなり、生活苦はこれからも続く。避難者の多くが「東電の補償だけでは、これまでのようには生きてゆけない。これからどうなるのか保証もない」と、先行きの見えない不安を口にする。

▼生活の場でさえ除染が遅れ、政府が言う復興前の復旧さえもめどが立たない。復旧の妨げになっているのが、言うまでもない地下汚染水の海洋流出、さらに地下水脈汚染の可能性だ。東電は浸透したであろう地面を掘って取り除くと言うが、滑稽な話だ。流れ出た大量の水は四方八方に広がり、深く広範囲にしみ込んでいるわけである。覆水盆に戻らず。タンク周辺のずさんな汚染水管理が明らかになったばかりだが、場当たりな手抜き工事がまた始まるのだろか。【天下無双】
                       (2013・8・28)

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