この人の失言はどうにもならない。あろうことか、ナチス政権を引き合いに出して「手口を学んではどうか」と無謀発言。世界が驚いたし、何よりも全世界に疑心を深めてしまった。石原慎太郎、橋下徹、安倍晋三、そしてまたもや話題の主、麻生太郎。これら諸氏の言動、そろいもそろったり。一言居士ならぬ“失言暴言4居士”のオンパレードである。

▼当の麻生副総理兼財務相は、ナチス憲法発言を撤回し釈明したというが、米ユダヤ人団体が非難声明を出した。声明は「どのような手法がナチスから学ぶに値するのか」として不快感を表明、「麻生氏はナチス・ドイツが権力を握ったことで世界がどん底に落ち込み、人類が第二次大戦の恐怖のなかに飲み込まれていったことを忘れたのか」と強く批判した。

▼7月29日の都内での講演会での発言。この中で麻生氏は「憲法改正は静かな環境の中で議論すべき」と強調、マスコミが騒ぐから中国や韓国も騒ぎ出す―などと私見を力説した。さらにナチス政権に触れ、「ドイツのワイマール憲法はいつの間にか変わっていた。誰も気づかない間に変わった。あの手口を学んではどうか」と言い出す始末。これにはびっくり仰天である。

▼歴史感もさることながら、それ以前の言葉の発する意味、与える影響をまったく理解していないのだろう。以前、健康保険のあり方をめぐり、「お年寄りは死にたいのに死なせてもらえない」と発言、物議をかもした。ほかにもたくさんある。改憲にしても国会の同意や国民投票が必要であり、しかも国民の約半数が反対の意思を示している中での発言。軽佻浮薄（けいちょうふはく）な言動は今に始まったことではないが。

▼今回ばかりは世界が黙ってはいなかった。各国の主要メディアが一斉に報じ、ネットでも話題を席巻した。枢要な地位にある副総理兼財務大臣とは思えない。確かに総理時代は漢字の誤読を連発し、失笑を買った。もう愛嬌ではすまされないのである。驕り、高ぶりの先にあるものは民を蔑（ないがしろ）にする政治しかない。危ういシビリアンコントロールが目立つワン・ツートップの「軽量内閣」。この先にあるものは…。【天下無双】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2013・8・2）