生活圏である山林原野がエサ不足なのか、それとも人間との共生もやむを得ないと考えているのか。このところ、東北地方でクマが人里に頻繁に出没する。福島県でも、クマに襲われ、1人が亡くなっている。けが人も8人と深刻な事態だ。クマだけなく、イノシシの被害も続出。ジャガイモやトウモロコシなど収穫時期にある農家は、相次ぐ被害に悲鳴を上げている。
 
▼動物にしてみれば、開発という人間による侵略で居住地を奪われ、山奥へと追いやられた。だが、大震災、原発事故の放射能汚染などで開発は休止、再びクマが居住地に舞い戻ってきたのだろうか。限界集落で里山が無人化しているのも原因のひとつかもしれない。放射能に汚染された山林に人が山菜採りなどに出掛けなくなったことや、間伐の手入れが行われなくなったことも要因だろう。
 
▼この時期、トウモロコシやスイカ、ジャガイモなどが食べごろとなり、クマが近くの田畑にたびたび出入りするようになったというから恐ろしい。住宅街や学校の近くまで現れるようになり、町場の住民とってもくれぐれも注意が必要だ。イノシシに荒らされた水稲は臭いが残り、味覚も落ちるとも言われる。農家の苦労は、放射能汚染とあわせてダブルパンチだ。
 
▼東京電力福島第一原発が立地し、居住制限区域にある双葉、大熊両町。無人と化した地域には、人の手から離れて野生化したブタやウシが徘徊。見るに無残な光景だ。人がいなくなれば、生命力ある動物は増え続ける。動物との棲み分け、共存。現実は言葉だけのそんな生易しいものではない。すべてが原発被害とは言わないが、福島の原風景が一変したことだけは確かだ。【天下無双】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2013・7・21）