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コラム・筆は一本也

「争点をもう一度確認」

自宅の近くから激しい物音が聞こえてきた。そこは未耕作畑が広がる福島市郊外。家の建築でも始まるのかと、興味津々のぞいてみれば、プレハブの作業場らしき建物が立ち並んでいた。業者に聞けば、除染作業の事務所や休憩施設だとわかった。東京電力福島第一原発の爆発事故から2年5カ月、本格的な除染作業がようやく始まろうとしている。危機感の伴わない、のんびりとした除染を当事者の東電や国はどう見ているのだろうか。
 
▼1兆6,000億円とも見込まれている除染費用。半減期が30年とされるセシウムの除去はとてつもない事業で、大手ゼネコン、土木建築業界にとってはまさに長期安定収入源。福島県内では中間貯蔵施設の整備が進まず、「除染を終えても空間線量はあまり変わらない」「むしろ増えている」と酷評される。除染をしても、原発事故前の自然界の線量まで下がる保証はない。
 
▼除染作業は庭土などを数㌢削り取り、そこに山砂を敷いているのが一般的だが、自宅周辺の畑や山林原野は除染も行われず、大雨のたびに宅地などにセシウムは流れ込む。とりわけ相双地域はとても自宅に慣れる状況ではなく、むしろ移住のための賠償を求める声が多い。2年半近くも空き家になっている自宅は、ネズミやイノシシ、ハチの巣、それに雑草も生い茂り、リフォームではおぼつかない惨状だ。
 
▼21日に投開票が行われる参院選だが、政治家やマスコミから伝わる主要な争点は原発にあらず。被災地を除けば半数が原発の再稼働を容認しているという。全国津々浦々に自然エネルギーを取り込み、電力を賄う国を挙げた取り組みは急速にしぼんだ。政治家ばかりでなく、国民の多くも、日本を滅ぼそうとした未曾有の惨事を忘れかけようとしているのではないか。争点をもう一度確認し、1票を行使したいと思う。【天下泰平】
                         (2013・7・19)

 
 

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