太平洋に面した福島県いわき市の小名浜港埠頭に、いわきの観光のシンボルとも言える環境水族館「アクアマリンふくしま」（ふくしま海洋科学館）が立地する。2011年3月11日の東日本大震災では、津波に襲われ大きな被害を出したが、職員、ボランティアたちの懸命の復旧作業で震災からわずか4カ月後に営業を再開した。短期間での復旧復興は周囲を驚かせたし、市民にも大きな勇気を与えた。その水族館に一風変わったモニュメントが置かれている。

▼大震災で出たがれきをモニュメントにした「がれき座」だ。施設の入り口前には、はぎ取ったアスファルトのがれきを活用し、がれき座の舞台をつくった。がれきを盛った、大人の背丈ほどの高さの山や丘が幾つか点在する。看板は、潮目の海の水槽内でおきた津波で破損した隔壁のアクリル板を使っている。館長の安部義孝さんは、復興日記に「復興計画と資金計画と時間と戦ってきた」と、苦悩し奮闘した日々を記している。

▼水族館の再開から間もなく、小名浜港を訪れた。そこで、がれきのモニュメントが目に留まった。反射的に異様な光景をカメラに収めたことを覚えている。がれきのモニュメントを概観し、多くの言葉はいらないような気がした。そうしたがれきも、放射性物質を含むおそれのある震災がれきの受け入れをめぐっては、地域エゴとは違う意見や主義主張が飛び交う。国民が等しく痛みを共有すべきか、地域の環境を第一に考えるべきなのか。結論は出ない。

▼こうした中、環境省は福島県のがれき処理について、目標とした来年3月末までの完了は難しいとの見通しを示した。岩手、宮城両県のがれきは、県内での処理に加え、17都府県が計67万㌧の広域処理の受け入れを表明したことで、予定の3月末までにすべての処理が終了する見通し。福島県の処理が進まないのは、仮設焼却炉の建設が遅れているのが原因だ。除染で出た汚染土の中間貯蔵施設の設置場所が決まらず、仮置き場の設置受け入れも進んでいない。

▼安倍政権が射る「3本の矢」は、矢継ぎ早に次々と放たれるが、福島県には悲しいかな、酷（むご）い矢しか放たれない。教訓にして4本目の矢はありえないのか。中東を歴訪しての原発ビジネス、対外情勢を考慮しない改憲への前のめり姿勢…。その結果、米国・元政府高官やクオリティーペーパーのニューヨークタイムからも苦言、批判を受ける始末。改憲論議を内政の問題ととらえるのは、この国際社会においてとても浅はかな政治ではなかろうか。【笑止千万】　　　　　　                                          　（2013・5・8）